信越化学工業のアメリカ子会社シンテック。1973年7月に当時の米国最大の塩ビパイプメーカー、ロビンテックと信越化学工業の合弁会社として創業した。
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 生成AIの中核を担うエヌビディアやTSMC。その高度な半導体技術を支えているのが、信越化学工業である。シリコンウエハーで世界トップシェアを誇り、AIの進化を陰で支える素材メーカーの事業構造と成長の源泉とは? 『決算書ナゾトキトレーニング』(PHP研究所)、『決算分析の地図』(ソシム)などの著者で、財務コンサルティングを行う村上茂久氏がひもとく。

エヌビディア、TSMCを支える信越化学工業

 信越化学工業(信越化学)――。2024年には時価総額が13兆円を超え、日本を代表する企業の一角としてその名を連ねています。現在は株価の調整もあり、時価総額は8兆円前後にとどまっているものの、三井物産、武田薬品工業、本田技研工業、日本たばこ産業といった有力企業を上回る水準を維持しています(2025年3月時点)。

 しかし、この企業の存在を即座に思い浮かべられるビジネスパーソンは、決して多くはないのではないでしょうか。

 実は信越化学は、世界の半導体産業を根底から支える「素材メーカー」として、エヌビディアやTSMCといった生成AIの発展を担う企業を陰で支えている、極めて重要な存在です。

 現在、生成AIは産業構造そのものを大きく変えつつあります。エヌビディアはAI向けGPU(画像処理半導体)の設計を担い、TSMCはそれをナノ(10億分の1メートル)単位で製造しています。そして、2025年3月時点で両社は、それぞれ世界時価総額ランキングの3位と9位に位置しています。

 かつて、日本は「半導体大国」と呼ばれていましたが、設計や製造といった分野において、今ではその地位を他国に譲っています。実際、世界の半導体メーカーの売上ランキングトップ10から、日本企業の名前は消えています(図表1)。

図表1 世界半導体メーカーの売上高ランキング

 しかしながら、半導体という巨大産業を「素材」という観点から支える領域においては、日本の企業が今なお世界的な存在感を示しています。その代表的な企業こそが、信越化学です。