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 デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。

 本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。今回は、不況と言われて久しい出版業界において売上を伸ばし続けるKADOKAWAのDXプロジェクトに注目。躍進の背景にある「営業」「製造」「物流」三位一体のデジタル化とは?

出版不況の根本的な要因となっている特殊な流通構造

 現在の出版業界は、「出版不況」という言葉が示すように、25年以上の不況が続いている。出版物の販売金額が低下の一途をたどり、書店が街から姿を消したことは、スマートフォンなどモバイル端末が普及し、マンガや小説などが電子書籍化したため、紙の本や雑誌を読む機会が減り、活字離れという社会現象が生み出されたことに少なからず起因する。

 深刻化する出版不況の要因は他にもあり、国民所得の実質的な減少や少子高齢化による生産年齢人口の減少、漫画喫茶や新古書店といった出版物の副次的流通市場の出現などが挙げられる。

 だが、こうした要因の多くは出版業界だけに当てはまるものではなく、あらゆる業界が共通して直面する問題でもある。にもかかわらず、出版業界に見られるような長期的な不況に陥る業界は少ないことから、出版不況の根本的な要因は、出版業界特有の流通構造にあると考えられる。