1921年の第一次大戦後、思うようにドイツから体温計が輸入できず、それを憂えた北里柴三郎博士を含む医師らが中心になって国産の良質な体温計製造のために作った会社「赤線検温器株式会社」がテルモのオリジンだ。そこから国産初の使い切り注射器や血液バッグ、血管内治療用カテーテルなどの開発・製造を担い、直近ではコロナ禍で同社の体外式膜型人工肺 エクモ(ECMO:Extracorporeal membrane oxygenation)が重症患者の治療に活躍したのは記憶に新しい。同社の企業理念は「医療を通じて社会に貢献する」であり、これは誰もが理解し納得できる内容だ。ここまで社会における立ち位置が明確な会社において、企業理念以外にパーパスという言語が必要なのだろうか。この疑問を同社CEOに問うてみた。
テルモには100年続く企業理念をはじめ、数々の支える言葉がある
テルモ 代表取締役社長CEOの佐藤慎次郎氏(以降、佐藤氏)は、パーパスは必要であり、同社のそれは「『医療の進化』と『患者さんのQOL向上』への貢献」と紹介した。そしてパーパスは同社の企業理念と5つのコアバリューズを実現する長期の方向性であり、大切な社会的使命だと言う。
コアバリューズとは2019年に誕生したテルモの社員共通の価値観で、こういう価値を共に抱いて仕事をしようと決められた。日頃の仕事前に確認してもらう、人を採用するときに説明する、戦略を検討するときに振り返るなど「日々の業務に取り込み、根付かせてきました」と佐藤氏は述べる。
テルモの企業理念体系とパーパスの位置付け。企業理念、社員共通の価値観であるコアバリューズ、そしてテルモアソシエイト(社員の方々)として高い倫理観をもって正しく行動するために守るべき行動原則が、テルモグループ行動規範だ。パーパスは企業理念を実現する長期の方向性として位置付けられている。
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こうした中、パーパスについて検討が始まる。社会の潮流としてパーパスを言語化することは取締役からも要望は強かった。しかし当初、佐藤氏はパーパスがテルモに必要かと疑問を感じる。企業理念、コアバリューズ、さらに同社は社員であるアソシエイトの行動規範もかなり明確にしており、これ以上の言葉は必要だろうか、トゥーマッチではないかと佐藤氏は悩んだ。
特に企業理念の「『医療を通じて社会に貢献する』は、ほぼ同じ形で100年間続いてきた言葉です。テルモが医療以外の目的のために存在していると思っているアソシエイトはいません。約2万8000人のアソシエイトの皆に聞いても、おそらく、他の会社さんより高い認知度と支持率があると思います」と佐藤氏は語り、理念の浸透度の深さを強調。テルモの製品を見る限り、その深さは納得できる。
そんな悩みが頭から離れなかった頃、新型コロナウィルスが世界を、日本を襲った。