民間企業によるロケット開発、人工衛星を利用した通信サービス、宇宙旅行など、大企業からベンチャー企業まで、世界のさまざまな企業が競争を繰り広げる宇宙産業。2040年には世界の市場規模が1兆ドルを超えるという予測もあり、成長期待がますます高まっている。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説。
第11回は、トランプ新政権の誕生、DOGE(政府効率化省)議長へ就任するイーロン・マスク氏の動向から、アメリカの宇宙政策の舞台裏を読み解く。米航空宇宙局(NASA)の次期長官はどのように決まり、ロケットの打ち上げコスト削減に向けて、マスク氏はどこまで疾走するのか。
41歳のNASA次期長官
2024年12月4日、ドナルド・トランプ氏が米航空宇宙局(NASA)の次期長官としてジャレッド・アイザックマン氏を指名した。この報道が世界を驚かせた理由は主に3つある。
1つはアイザックマン氏の経歴にある。彼はこれまでのNASA長官とは異なり、軍歴、NASA在籍歴、政治家の経験をいずれも持たない。16歳の時に決算処理会社を自ら立ち上げ、現在はそのCEOを務めるビリオネア(億万長者)である。9月には宇宙船クルードラゴンをチャーターして2度目の宇宙旅行に臨み、民間人として史上初めて宇宙遊泳を行った。41歳でのNASA長官就任は過去最年少だ。
もう1つの驚きは、トランプ氏がNASA長官を指名したタイミングだ。今回の指名は通例と比べて異様に早く、これはトランプ氏にとって宇宙政策のプライオリティが高いことを示唆する。
現在のNASAには課題が多い。バイデン大統領は12月5日、有人月面探査計画「アルテミス」における有人月面着陸を2026年から2027年に延期すると発表した。当初は2024年が予定されていたが、これで累計3年の遅延となる。
一方、中国は2030年までにヒトを月面に送り込む予定であり、遅延なくその準備を進めている。米国が宇宙における覇権を維持し、月面基地の建設を有利に進めるには、これ以上の計画延期は避けるべきだ。
同時にNASA は現在、過度な予算不足にあえいでいる。過去1年間では予算不足を理由に複数の計画が中止または停止されている。2月にはNASAの一機関であるJPL(ジェット推進研究所)の、全職員の8%にあたる530人と40人の請負業者を解雇。さらに11月12日には職員325人を解雇している。