多くの日本企業がSDGs達成に注力する中、経営コンサルタント・経営学者で、味の素などの社外取締役を務める一橋ビジネススクール客員教授の名和高司氏は、2030年よりもっと先の未来を見据えた取り組みとして「新SDGs」を提唱する。企業のDX戦略についても、まず「北極星を掲げ、自社変革・エコシステム変革・ビジネスモデル変革、そしてXマネジメントにまい進すべし」と唱える。新SDGsとDX戦略の理想形について名和氏が解説する。
※本コンテンツは、2022年1月27日に開催されたJBpress主催「第2回 金融DXフォーラム」Day2の基調講演「金融業界に今、必要なパーパス(志本)経営」の内容を採録したものです。
DX戦略における「北極星」の重要性
SDGsはあくまで2030年までの目標で、既に残り8年を切っている。名和氏は「もっと先を見据えるべき」だと警鐘を鳴らし、「新SDGs」を掲げて「資本主義から、志を起点とした志本主義(Purposism=purpose+ismの造語)への転換」を提唱する。
新SDGsにおいて「S」は国連が提唱するSDGsと同じ「Sustainability」だが、意味合いが少し異なる。
「国連が呼び掛ける現行のSDGsにおけるSustainability は、17枚のカード(17の開発目標)としてあらかじめ指定されている『規定演技』のようなもの。企業は規定演技をこなすだけでは十分ではなく、独自性を発揮できる『自由演技』として18枚目のカードを見つけなければ事業を継続できません」
新SDGsにおける、Dは「Digital」、Gは「Globals」。DigitalはDXのことであり、Globalsはボーダレスからボーダフル(ジオエコノミクス)への転換を意味する。
そして、新SDGsの原動力となるのがパーパスだ。
「日本企業は今、北極星のような存在として、MTP (Massive Transformative Purpose、野心的な変革目標)を掲げることが大切です。人の知恵だけでやり遂げてしまうことは、長らく日本企業の良い側面だとされてきました。だからこそ、デジタルが必要とされるのが世界より遅れ、後塵を拝したとも考えられます。しかし、もっと高いところに視座を持ち、北極星があればどうでしょうか。その目標達成のためには、今のアセットのまま10倍のアウトプットを出さなければならないとなれば、おのずとデジタルを使わなければならなくなります。私が社外取締役を務める味の素でも『パーパスを軸とした変革』が実践されました。それがASV(Ajinomoto Group Shared Value) という取り組みです」