撮影:本永創太

 2021年度以来、過去最高売上を更新し続ける富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」。デジタル全盛、スマホ全盛の時代になぜ、アナログ写真のチェキが人気なのか。コンシュ-マー向けイメージング事業を統括する高井隆一郎氏への取材を通じて、その歴史とこだわり、世界市場に向けたマーケティングの秘密に迫る。前編では、誕生から現在まで、デジタル時代を生き抜いたチェキの魅力を解明する。(前編/全2回)

スマホでも奪えない、チェキの根強いニーズがあった

 富士フイルムといえば、フィルムからデジタルへのカメラの移行期を経営の多角化で乗り越え、業態を転換した成功企業として知られている。現在の事業ポートフォリオはヘルスケア事業や半導体材料など、B2Bビジネスが中心のように思えるが、イメージング(写真)事業も、事業部制となった2000年以降過去最高の営業利益を達成し、事業の柱として存在感を示している。中でも、コンシューマー向けのインスタントカメラ「チェキ」が世界的に成長を続け、前期初めて売り上げ1500億円を突破した。

1998年に発売された初号機「instax mini 10」

 チェキは、今から26年前の1998年に初号機「instax mini 10」が発売されたところから、その歴史をスタートする。初号機のコンセプトは明快で、当時若者を中心に大流行していたレンズ付きフィルム「写ルンです」と、同じくコミュニケーションツールとして人気だった「プリクラ」を合体するというものだった。

「インスタントカメラ」(もしくは「ポラロイドカメラ」)と呼ばれる従来から存在したプリント機能付きカメラは、大きく、重かった。コアな想定ユーザーである女子高生などのかばんに入るようにするためには、大幅に小さく、軽くする必要があった。

 従来のインスタントカメラがプリントする写真のサイズは、アナログ写真のL版のサイズに近いサイズだった。これでは、本体を小型化することは難しい。そこでチェキの初号機は、プリントされる写真のサイズを小さく、カードサイズとすることを決めた。ターゲットは「生徒手帳に挟めるサイズ」だ。現在、コンシューマー向けイメージング事業を統括する、同社イメージングソリューション事業部コンシューマーイメージンググループ統括マネージャーの高井隆一郎氏は、次のように語る。