およそ100人に1人の新生児に発症するといわれる先天性心疾患。この外科手術における長年の課題を解決するために開発されたのが、心・血管修復パッチ「シンフォリウム」だ。大阪医科薬科大学、福井経編興業、帝人が10年以上かけて共同開発に取り組み、2024年6月に販売を開始した。さまざまな困難が伴う「小児用医療機器」の新規開発をどのように成功させたのか。シンフォリウム開発プロジェクトの舞台裏に迫る。(前編/全2回)
先天性心疾患における「再手術」という課題
先天性心疾患とは、生まれつき心臓や血管の構造が正常と異なることを指す。例として、心臓と肺をつなぐ血管の一部が狭い「肺動脈狭窄」のケースなどがある。放っておけば血液の循環などに支障が出る。
従来この疾患に対しては、医療用パッチを心臓の一部に埋植するといった外科手術が行われてきた。狭くなっている動脈や欠損している心臓の修復・補強のために、合成樹脂や動物由来の素材で作られたパッチを埋植していくのである。
しかし、ここには大きな課題があった。多くは1歳未満で手術を行うため、患者の成長に伴って心臓や血管が大きくなると、パッチのサイズが合わなくなる可能性がある。また、体内でパッチが劣化することも少なくない。結果、患者は成人までの間に、パッチ交換の再手術を複数回行うケースが多かった。
心臓の再手術は、患者やその親にとって大きな負担になる。身体的な苦痛、精神的な不安はもちろん、手術費も高額になるためだ。