データサイエンティストといった高度DX人材に限らず、間接業務や現場部門で働く人材に対しても、DXスキルを身につけてもらう。いわゆる「DX基礎教育」を導入する企業が少なくない。創業100年を超える老舗繊維メーカーの帝人も、まさにその1社である。帝人のDX人材育成に対する考え、具体的な施策などを、DX推進部の齋藤龍則氏、井上匡人氏の2人に聞いた。
2017年からDXに着手
——帝人は、いつから、どのようなきっかけでDXに取り組むようになったのでしょうか。
齋藤龍則氏(以下敬称略) 私たちがDXに取り組むようになったのは、世間でデジタル化が注目されるようになった2017年ごろからでした。ただ当時は正確にはDXではなく、「スマートプロジェクト」との名称でした。
具体的な取り組みとしては、デジタル技術を各種業務に活用するべく、「研究開発」「工場」「スタッフ業務」と大きく3つの領域で実施していきました。
研究開発では、われわれが得意とする各種繊維や樹脂などの高機能素材やヘルスケア事業を、AIなどの情報科学(インフォマティクス)を用いて、付加価値を高めていく。また、事業部で取り組んでいる、実験データなどからインフォマティクス技術を応用して材料開発を行うマテリアルズ・インフォマティクスや、大学との共同研究でのデジタル活用も進めていましたので、そうした取り組みとも強く連携してきました。
工場ではスマートファクトリー化を支援しています。愛媛県松山市にある事業所をモデル工場とし、センサーなどのIoT機器を設置したり、AIによる欠品検査などを実装し、データ利活用の支援をしています。
井上匡人氏(以下敬称略) スタッフ業務においては、2018年にRPA(Robotic Process Automation)プロジェクト組織であるRPA推進班(2019年に業務変革推進室に改称)を設立し、全社の日々のスタッフ業務をRPAで効率化するプロジェクトを推進していきました。RPAプロジェクトは2022年まで継続し、180の業務でRPAを実装。成果として、8万時間を創出しました。
——DXの成果は着実に出ていると。DX人材の育成についてはどうですか。
井上 RPAプロジェクトでは、プロジェクト組織内の開発部隊が、現場から上がってきた業務に適したRPAを開発し、現場に戻す、このような専門組織集約的なフローでした。しかし、今、私たちが取り組んでいるDXを推進するには、対象となる問題や課題を現場で実際に業務を担っている従業員が、組織事や自分事としてとらえ、現場で自律的に行った方が効率的だと考えています。
人材育成においても、RPAプロジェクトを実施した当時の専門組織集約的な考え方を改めています。RPAプロジェクトでは、開発ツールであるPower Automate Desktopを使えるようにする研修を設計し、提供しました。今取り組んでいるDXにおいても、現場の従業員を、独自にデジタルを利活用できるような人材に育成していきたいと考えています。