ゲーム、音楽からテレビやスマートフォン、さらには半導体や金融まで、ソニーグループの各事業の技術者を横串でつないでいく──。多様な事業を展開する同グループには、所属する事業会社や部門は異なるものの、同じ技術領域を担当する技術者が組織横断で交流する「技術戦略コミッティ」が存在する。こうした活動がどのような経緯でスタートし、どういった成果を出しているのか。現在10領域あるコミッティの一つである「メカ戦略コミッティ」の立ち上げに携わったソニー インキュベーションセンター XR技術開発部門 部門長、Distinguished Engineerの天辰誠也氏に前後編で取材していく。前編となる本記事では、設立の経緯と初期の社内啓蒙の進め方に迫った。
■【前編】ソニーのグループ横断活動、異分野技術者の交流が生み出す大きな「実利」とは(今回)
■【後編】CAD統一にも成功 、新しい価値を生み出したソニー“横串活動”の綿密な作戦
コミッティ発足の理由「マネジメントも技術者も同じ課題を感じていた」
——ソニーグループでは、10の技術領域で「技術戦略コミッティ」が作られ、活動しています。技術戦略コミッティは、そもそもどのような課題から作られたのでしょうか。
天辰誠也氏(以下敬称略) 私が代表を担っている「メカ戦略コミッティ」は、2012年に立ち上がりました。これが、現在のグループ全体の活動である「技術戦略コミッティ」の前身となっています。当時、ソニーのエレクトロニクス製品のメカ設計の現場は、大きく2つの課題を抱えていました。ひとつは、各事業組織における技術開発のテーマが重複している事例が多くあったこと。もうひとつは、分社化が進んだことでグループ横断での人材交流が減っていたことです。一方で、海外の先進企業の取り組みを見ると、中期的な技術戦略を“全社”で足並みを揃えて進めている事例が見られました。
我々も何らかの策が必要と考え、思いついた構想がメカ戦略コミッティです。会社の仕組みとして、組織の垣根を超えた技術戦略や人材交流に取り組む必要性を感じ、当時、部門としての中期計画立案時に、メカ領域においてグループ全体で戦略的に連携していきたいと事業マネジメントに訴えました。
——天辰さんの提案に対し、マネジメントの理解を得られたということでしょうか。
天辰 ほかのメカの技術者や事業マネジメントも同じ課題意識を持っていたのだと思います。だからこそ協力してくれたのでしょう。各事業組織が自由度高く開発を進めることには、メリットもデメリットもあります。コミッティが目指したのは、そのうちのデメリットを無くしていくことでした。
——このような横串組織は、組織図に載る公式な社内組織として作られることもあれば、組織図には載らないコミュニティなどの形を取るケースも見られます。ここではどうしたのでしょうか。
天辰 ソニーの場合は、会社の組織図に載らないバーチャルなコミュニティとして活動しています。あえて公式な組織とはしない方が、事業における取り組みの延長ではない新たな視点での挑戦ができ、本当の意味で横串の価値が生まれるのではないかと考えています。