マツダの技術力の象徴ともいえるロータリーエンジン。三角形のローターが回転することで動力を生む独自の構造を持つ同エンジンは、燃費面ではやや不利ながら、小型、軽量、高出力という特性を持ち、1967年発売の「コスモスポーツ」に初搭載された。その後、ロータリーエンジンは2012年に生産終了となっていたが、今般、発電機用として蘇った。11月に発売となったプラグインハイブリッド(PHV)車「MX─30 Rotary─EV」がそれだ。同車の主査を務める商品開発本部の上藤和佳子氏に、ロータリーEVの開発秘話や、同氏の異色のキャリアなどについて聞いた。
ロータリーEVモデルの開発に時間がかかった理由
――マツダの象徴ともいえる独自技術、ロータリーエンジンの量産を11年ぶりに復活させましたね。
上藤和佳子氏(以下敬称略) ロータリーエンジンの特別感はマツダの全社員が共有しているものです。
いまでもマツダに入社してくる技術者の多くが「ロータリーをやりたい」と希望するぐらいですし、私自身も新入社員の時の工場実習で、運よくロータリーエンジンの組み立て工程で仕事をすることができました。会社生活のスタートになった技術でもありますので、やはり特別な思いを持っています。
――MX─30は2016年5月に商品開発がスタートし、2020年10月にマイルドハイブリッドモデル、次いでEV(電気自動車)モデルを市場投入してきました。ロータリーEVモデルについては2019年4月から技術開発が始まったそうですね。
上藤 私は2021年4月からこのクルマの主査を担当し、ロータリーEVモデルの試作から量産化にもっていく役割を担いましたが、想定以上に苦労した点もあり、少し時間がかかってしまったというのが正直なところです。
基本諸元、たとえばロータリーエンジンのローターの創成半径(正三角形形状の3頂点の中心からの距離)など、これまであまり踏み込んでいないところまで変更し、サイドハウジング(ローターの作動室を前後から挟み込んで密封するハウジング)も軽量化を狙ってアルミに換装しています。少しでも軽くすることでEVとしての航続距離を伸ばし、発電時の電費も向上するよう、開発、生産両部門一緒になって頑張りました。機能や性能面での検証には念には念を入れ、かなりの時間を割きました。
また、MX─30のロータリーエンジンは2ローターでなく1ローターかつ大型化しておりますので設計上、回転体という意味では完璧なバランスが取れるのですが、逆に言えば少しでもどこかに重量のバラつきがあると、それを全部拾ってしまうためバランス精度が重要です。そのため、生産工程ではローターを1個ずつ測定し、バラつきがあれば1台1台に合わせて加工を2、3度繰り返すという作業も行っています。