オンラインでの新車販売、顧客情報データベースの統合など着々とDXを進める三菱自動車。同社のDX戦略を担う組織の1つにデジタルイノベーション推進部がある。この組織はさかのぼること5、6年前、「変革を成し遂げるには、まずはIT部門から」という意識のもと、同部門から有志を募って発足したチームが母体だという。メンバーに求められたのは、自分たちからさまざまな部門にデジタルを使った施策を提案すること。それは、どちらかと言うと受身の業務だった従来のIT部門とは違う働き方だった。だからこそ、リーダーを務めた三菱自動車執行役員CIOの車真佐夫氏が行ったのは、「新しいカルチャー」を生み出すための仕掛けだったという。

15年先を見据えたDX戦略と販売領域でのタイの成功事例

──三菱自動車ではDXとしてどのような施策を進めているのでしょうか。

車 真佐夫/三菱自動車工業 執行役員 CIO(最高情報責任者)グローバルIT本部長

1983年にソニー株式会社に入社しコンピューター部配属。香港、ドイツ赴任を経て、e-Platformグローバル企画推進部統括部長、ビジネストランスフォーメーション/ISセンターグローバルISマネジメント部統括部長、ソニーコーポレートサービス株式会社 執行役員などを歴任。2016年10月に三菱自動車工業株式会社 執行役員 最高情報責任者(CIO) グローバルIT本部長に就任。

車真佐夫氏(以下敬称略) 直近の代表的な例としては、販売領域のカスタマープラットフォームをつなげたことです。

 これまで当領域のシステムは、プリセールス、セールス、アフターセールスと3つに分かれており、お客さまの情報がつながっていない状態だったのです。それらを一つにまとめ、カスタマージャーニーに沿ったお付き合いができるように考えました。

 まずは成功事例を作るため、注力するASEAN地域のタイから実践しました。セールス部門を一つにまとめた新しい組織を作り、日本のIT部門からヘッドとなる人材を送り込みました。

 とはいえ、現地のセールスは、資本関係のない販売社やディーラーとの連携が必須です。現場に足繁く通い、責任者と話しながら説得。一方的にシステム変更を押し付けるのではなく、こちらも商品知識やセールス用のYouTube動画の作り方を教えるなどして、ウインウインな関係を築きつつ現地での連携を深めていきました。

 その結果、お客さまがディーラーに来店した時には、すでにお名前や家族構成、趣味などを把握した状態からスタートできるようになりました。また購入後においても、新車が出た際はSNSを活用して、いち早く次のセールスに向けたお知らせをすることもできます。各販売領域において、お客さまの情報をすべて結びつけることに成功したのです。ここで蓄積したノウハウをナレッジデータベース化し、他国でも展開できるようにしています。