100年に一度と言われる大変革期にある自動車業界。あらゆる関連企業が対応を迫られる中、車載ハーネス(線材)やメーター類をグローバルに提供する矢崎グループは2016年にいち早くAI・デジタルプロジェクトを開始し、その後組織化。先端デジタル技術の活用や新サービスの創出に取り組んでいる。AI・デジタル室はどのような組織、陣容で業界の大変革に立ち向かおうとしているのか。室長の丹下博氏に聞いた。
業界大変革を見越していち早くAI・デジタル室を創設
2016年、独メルセデス・ベンツがパリモーターショーで、今後の車のあるべき姿として「CASE」(コネクテッド、自動運転、シェアリングとサービス、電動化)という言葉を提唱した。矢崎グループでは同年、AI・デジタルプロジェクトチームが発足した。
――矢崎総業がAI・デジタル室を創設した理由を教えてください。
丹下博氏(以下敬称略) 自動車業界で進む変革の中で特に大きな2つが自動運転と電動化です。このうち自動運転は、社会的制度の構築も必要なのでまだ少し時間がかかるかもしれませんが、電動化は待ったなしです。電気で動くわけですから、電気を流すハーネスの必要性は高まりますし、より高い電圧の利用も増える。こうした変革への対策にデジタル技術が必要になるのは論を待たないと思います。
また変化はハーネスだけでなく、自動車社会そのものにも起こります。業態が変わってくるわけです。だからこそデジタル技術を社内的な改革にも活用し、成長し続けられる体質をより強化しないといけないとも考えています。
当社にとっては良いチャンスでした。実は、当社は非常に多くの交通に関するデータを持っていて、そのデータをどう活用していくかが課題だったのです。大量の交通データと当社の強みを合わせて、新しいビジネスを作っていきたいという思いもありました。
先の体質強化が守りなら、データ活用は攻めです。両者を達成するためにAIとデジタル技術の活用は不可欠だという判断です。
――会社によっては攻めと守りを別部署にしているところもあります。また内製にこだわる会社もありますが、矢崎総業は、攻めと守りを同一部署で行い、外部からも人材を引き入れています。
丹下 私たちはデジタル技術を、個別のシステムだけではなく、経営そのものに役立てたいと考えています。またAIのアルゴリズム作成などは、従来の技術だけではカバーできません。そうした広く新しい技術やリソースを、攻めと守りという形で分散するのは効率的ではないと判断しました。
AIやデジタル技術を、既存業務の中でどう活用するか、新規事業として育てるかを検討することは、経営コンサルティングの仕事にも近い。ですから自動車業界の変革に対応するには、AI、デジタル技術、経営コンサルティングの3つの力を合わせて解決を目指していく必要があると考えました。こうしたことが可能な人材を、分散させずに、1つの組織に集めようとしたのです。
また内製にこだわらず外部人材を積極的に採用している理由は「スピード」です。もちろん内部教育も重視していますが、求めている人材に育つまでには5年ぐらいはかかるかと思います。AIやデジタルの流れが、最近は特に驚異的に早くなっていますよね。内製だけでは、スピード感がまったく合わないなと思っています。
だからといってAIのアルゴリズム作成を、外部の会社に頼んでしまうと、われわれにノウハウがたまらない。ということで当社の結論は、外部人材を採用する、内部でも育てるという両方を実施し、ノウハウを社内に残すのがベストと考えています。