日産自動車とホンダという20世紀には思いもよらなかった組み合わせの提携覚書が交わされた。中国をはじめとする新興勢力のプレッシャーが強まる一方であることへの危機感が生んだ電撃提携だが、何をやるかはまだ決まっていない。この提携が世界にどのくらいのインパクトを与えられるのか。
「今までの流儀を守るだけでは戦えない」
3月15日、日産自動車とホンダは包括提携に向けた覚書を交わしたと発表した。会見では協業の話が持ち上がったのは今年1月とのコメントがあったが、日産社内にディープスロートを持つジャーナリストが昨年から両者の提携の可能性に言及してきたことから、日産社内では相当前からホンダとの提携を模索する動きがあったものと推察される。
日産の内田誠社長は協業の動機について、「新興メーカーが革新的な商品、ビジネスモデルで自動車業界に参入し、圧倒的な価格競争力とスピードで市場を席巻しようとしている。今までの流儀を守るだけでは戦えない」と説明した。
自動車分野のレガシーメーカーが新興勢力から受ける圧力は加速度的に高まっている。特に進境著しいのは中国勢だ。クルマの電動化に前のめりな自動車メーカー、CATL(寧徳時代新能源科技)やBYD(比亜迪)などの巨大バッテリーメーカー、クルマのプラットフォーマーを目指すファーウェイはじめAI(人工知能)のテクノロジーファームなど、異分野の企業がタッグを組んで技術革新を試み、次の時代の主導権を握らんとしている。
例を挙げればきりがないが、一例はバッテリー技術。昨年あたりからBEV(バッテリー式電気自動車)への超急速充電の実験で中国勢が劇的な成果を上げるようになってきた。定格容量100Ahのバッテリーに5倍速の500A、7倍速の700Aといったすさまじい大電流を流しても耐えられるバッテリーセルが量産前のサンプル出荷の段階に到達しつつある。
現状では世界のどの急速充電ネットワークも採算がまったく取れていない状況だが、それは相当に攻めたモデルでもせいぜい倍速充電止まりで、1台あたりの設備占有時間が長過ぎるためにそうなっているという側面が大きい。
トヨタ自動車とパナソニックの共同出資により設立された、自動車用電池メーカーであるプライムアースEVエナジーの関係者の一人は、
「バッテリーパックがおおむね5分で80%充電に相当する10C(10倍速)以上の電流を受け入れられるようになり、道路交通用の膨大な電力を個供給できる専用グリッドを持つようになれば、電動化の様相は今とは全く異なるものになる。充電代に適切な利用コストを上乗せでき、充電が持続可能なビジネスになる。クルマの側も今ほど大量のバッテリーを搭載する必要がなくなり、コストは下がる」
と展望を語った。商用化するまでには幾多のハードルがあるとはいえ、10倍速に中国勢がリーチをかけつつあるというのは想定をはるかに超えるスピード感だと電動車両の開発に携わるエンジニアは口をそろえる。次世代ADAS(先進運転支援システム)や自動運転のコアテクノロジーであるAI、情報通信技術など、他の分野も同じようなスピード感があるという。