日産自動車は、次世代のクルマづくりのコンセプト「ニッサン インテリジェントファクトリー」(NIF)を打ち出し、生産工場への導入を進めている。NIFの柱の一つとしているのが「人とロボットの共生」だ。同社常務執行役員で車両生産技術開発本部担当の平田 禎治氏は、工場でのロボット導入や自動化の最大の意義は、もはや「合理化のため」ではなくなったと見ている。NIFにおける「共生」の具体例と真の意義を平田氏に聞いた。
未来のクルマをつくるため工場を知能化
――日産自動車が、次世代のクルマづくりのコンセプトと打ち出している「ニッサン インテリジェントファクトリー」(NIF)とはどのようなものでしょうか。
平田 NIFでは、次世代のクルマに合わせて「インテリジェントな生産ライン」を導入することに主眼を置いています。ご存じのようにクルマは知能化・電動化しています。すると既存の工場ではつくれない「手ごわいクルマ」も出てきます。未来のクルマをつくるには、工場も知能化させていく必要があるという考えが基本にあります。
合わせて、カーボンニュートラルなど社会の諸課題にも企業として取り組まなければなりません。こうした観点も含めて進めてきたのがNIFです。NIFでは「未来のクルマをつくる技術」「匠の技で育つロボット」「人とロボットの共生」「ゼロエミッション化生産システム」の4つを柱としています。
人とロボットが一緒に働く環境をつくる
――NIFの柱に「人とロボットの共生」があります。この柱の意味するところを教えてください。
平田 人とロボットが一緒に働ける環境を実現するということです。これまで工場内のロボットは、人が作業する環境とは別の、安全柵内で作業するのが常でした。けれどもロボットメーカーの努力もあり、「協働ロボット」が現れはじめ、人とロボットが協力して働くことができるようになってきています。
クルマづくりでは、人が車を組み立てる上で、きつい姿勢を維持しなければならない高負荷の作業がありました。例えば、パワートレインとよばれるエンジンなどの主要部を組みつけるときは、作業者が複数にわたる工程を手作業で進めなければなりません。
また、作業者の高度なテクニックを必要とする作業もあります。目視による細部の仕様確認や微細なキズの検出などは、作業者の“目力(めぢから)”を頼りにしてきました。とはいえ熟練の作業者も人間ですので、3〜4時間で能力は落ちてきます。ローテーションが必要です。
こうした作業に対し、ロボットなどに置き換えられるところは置き換えるようにしています。その一方で、人がやるべき作業や、人の技能に頼らざるをえない作業については人が担っていく。このように、人の作業とロボットの作業をうまく分けながら、分担協力して働ける環境を本格的につくっていこうとしているのです。