機能的価値以上に意味的価値の重要性が叫ばれて久しい昨今の製造業界。日本の製造業復権に向けて、抜本的な変革が求められている。『アート思考のものづくり』(日本経済新聞出版)の著書であり、大阪大学 経済学研究科教授の延岡健太郎氏は、「ものづくりのイノベーションは、従来の手法が通用しない時代を迎えた」と語る。日本企業が抱える課題やものづくりを基盤としたイノベーションの重要性について、同氏に聞いた。

※本コンテンツは、2022年4月22日に開催されたJBpress/JDIR主催「製造・建設・物流イノベーションWeek」で開催された「第1回建設DXフォーラム」の基調講演「アート思考のものづくり:顧客価値イノベーションとSEDAモデル」の内容を採録したものです。

アップルのiPhoneが成し遂げた「新しい価値」の創出

「アート思考」や「デザイン思考」がイノベーションの創造に不可欠なものであるとされ、ものづくりを担う多くの製造業が「アート思考」によるものづくりに取り組み始めている。延岡氏の母校でもあるマサチューセッツ工科大学(MIT)では、イノベーションとは「Invention and Exploitation」であると定義する。

「イノベーションを一言で表すならば、『結果』です。混同されがちですが『技術革新』は『手段』でしかありません。例えば、アレクサンダー・グラハム・ベルは電話の発明家として知られていますが、AT&Tを創業して米国中にインフラをつくり上げました。電球を発明したトーマス・エジソンも同様にGEを創業して電気網を米国中に広げました。発明を世の中に広く普及させた彼らこそがイノベーターだといえるでしょう。残念ながら現在の日本企業の取り組みは手段に偏りがちです。世の中の役に立つ新たな価値を創出する、本当のイノベーションに取り組んでもらいたいと思っています」

 延岡氏は「新たな価値の創出」とは「価格が高くても顧客が喜んで買いたいと熱望する価値を、低コストで創造する」ことだと述べる。例えば、10万円の原材料で製造した商品に魅力的な価値を付加すると、顧客は50万円でも購入したいと考える。この差額である40万円分がイノベーションに当たるという。アップルの「iPhone」は新たな価値が創出された典型例だ。iPhoneとAndroid機器をカタログスペックの面だけで比較すれば、両者にそれほど大きな差はない。それでも世界中の顧客はAndroid機器の約3倍の価格設定がされたiPhoneを選ぶ。「その理由を真に理解できていないことが日本企業の大きな課題だ」と延岡氏は警告する。