創業1944年、ラジオ向けのコンデンサー開発からスタートした村田製作所は、電子デバイスの製造・販売を中心とする「ものづくり」の会社だ。特に積層セラミックコンデンサーでは、世界が求める電子機器の「軽薄短小」を可能にするため、0.2mm×0.1mmというサイズの極小タイプを開発して、世界市場の40%を占めるほどの業界トップクラスと言える。デジタルのフィールドで技術革新に努め、常に独自の製品を提供する同社の姿は、ある意味、生まれながらのDX企業といえるのではないだろうか。そんな同社が、先頃発表した長期構想「ビジョン2030」で初めてDXという単語を盛り込んだとのこと。その意図と、村田製作所にとってのDXについて、同社 執行役員 情報システム統括部 統括部長 岡本敏彦氏に聞いた。
村田製作所にとって大切なのは「ものづくり」。そのためにDXを活用する
「われわれは、長年、電子デバイスの開発や製造を、ずっと積み重ねて実践してきました。弊社の社是に『技術を練磨し、科学的管理を実践し、独自の製品を供給』とあるように、技術開発はとても大切にしています。例えば、軽薄短小な電子部品というものづくりに注力してきました」と岡本氏は、まず村田製作所の中心軸について語る。
現在、同社のスローガンである『Innovator in Electronics』は、まさにこの社是の現代語訳であり、Electronics=Digitalと考えれば、DXそのものと言える。DXという言葉が無かったころからDXな社是を掲げた同社にとって、あえて長期構想にDXをメッセージに入れる理由はなんだろう。
岡本氏によれば、村田製作所のコアはものづくりだが、ものづくりを普遍的な顧客価値として届けることを大切にしている。例えば、軽薄短小は、通信形態が有線から無線、固定からモバイルに変化する中で求められたものづくりの技術。CS(顧客満足度)を最重要視しているムラタにとって「顧客が求めるDXを取り入れるのは必要な手段と言えます」と加える。「情報システム部門は、デジタル技術の追求や推進には、それなりにいろいろなこと行ってきました。DXのDは、日々実践していると言えます。だから、Xであるトランスフォーメーション、変革を、IT部門だけではなく、いろいろな現場や全ての部門と考えていこうということでDXを加えました」と語った。
また、岡本氏は、経済産業省が発表した「2025年の壁」に代表される、AIやクラウドといった新しいデジタル技術を産業界も大いに活用すべしというメッセージへの返答でもあるという。同社の世界中の顧客は、こうした新しい技術を利用する傾向が強く、デバイスに関するデータを受け渡すにしてもSaaSやクラウドといった基盤の上でのやりとりが増えてきた。そこで、顧客同様に昨今のDX文脈に沿ったデータシステムを取り入れて、今風のDXも実践。これによって顧客とのデータのやりとりもスムーズになった。
長期構想「ビジョン2030」が示す、村田製作所のDX
先に同社の「ビジョン2030」を紹介したが、これは企業方針の村田製作所版で、最新は2021年に出され、村田製作所の2030のあるべき姿をメッセージしている。詳しくは同社ホームページを参照いただきたいが、そこには2030年に「Global No.1部品メーカー」を目指すと記されている。
そのための成長戦略として「3層のポートフォリオ」という同社の基盤とすべきビジネスモデルが紹介されている。