1962年9月生まれ。ニトリ入社後、配送、店舗勤務を経て情報システム室に配属。社内システム構築に携わり、2003年には情報システム室室長に就任。2010年に情報システム室を離れ、新規事業立ち上げや海外出店等の幾つかのプロジェクトへ参画。その後、2020年にニトリグループCIO(最高情報責任者)に就任し、現在は2022年4月に設立されたIT子会社ニトリデジタルベースの代表取締役社長を兼任している。

 家具やホームファッションを展開する大手SPA(製造小売業)チェーンのニトリが持続的、かつ急成長を続けている。前期は35期連続の増収増益を達成した。同社の快進撃を下支えしているのは実はDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。

 JBpress/JDIRは2022年6月30日に小売企業の経営者や幹部、DX推進や経営企画、人事などの部門のビジネスパーソンを対象に、8回目となる「リテールDXフォーラム~リテールDXの実現と新価値創造へ~」をオンラインで開催する。そこで特別講演を行うニトリホールディングスの上席執行役員CIO(最高情報責任者)であり、この4月に設立された新会社、ニトリデジタルベースの社長を兼務する佐藤昌久氏にニトリのDXについて聞いた。

チェーンストアのロマンとビジョンを実現する

――ニトリは自らを「製造物流IT小売業」と称しています。最初は「製造小売業」に「物流」を付けて「製造物流小売業」と言っていたが、2、3年前に「IT」が加わった。ここに込められた意味は。

佐藤 ニトリは非常にユニークなビジネスモデルを持っています。企画し製造した商品を工場から出荷し、港まで運んで輸出、コンテナで日本に輸入して、物流センターに入った商品を店頭とEC(電子商取引)を通してお客さまに販売、自宅までお届けして、設置までする。その後のアフターサービスを含め、一連の業務を全て自社で内製した1つのシステムで賄っているのです。

 この上流から下流まで物を動かすバリューチェーンを支えるのはITで、まさに経営の基盤。製造、物流とITがあって初めて小売業が成り立っているのです。そこに真剣に取り組んでいると発信する意味を込めてITを加えました。

――ニトリが進めるDXの目的とは。

佐藤 ニトリが掲げる「住まいの豊かさを、世界の人々に提供する」というロマンと「2032年に3000店・3兆円を実現して世界の暮らし提案企業になる」というビジョンを実現することです。そのためには店舗数を増やして規模を拡大し、サプライチェーンを構築し、利益構造を変えていかなくてはならない。

 そのビジネスの基本部分でスピード感を持って進める組織がDXだと考えています。物流や商流で組んだメインのビジネスモデルに、最近はワントゥワンマーケティングといった顧客サービス基盤、データドリブン(データ駆動)経営によるデータ活用なども新たな要素として付け加えています。

――DX推進に当たって心掛けていることは。

佐藤 一番は先取りすることです。事業部側から「これをやってほしい」と言われてから取り組むのではなく、ビジネス側のスタンスに立って、次にやらなければならない課題を設定していく。IT部門はビジネス側の下請け組織ではなく、提案型の部署でありたいと考えています。

――新たなDX案件に取り組む際に特に重視しているのは。

佐藤 当社は5年ぐらいのスパンでは数百人月規模の大きなプロジェクトを幾つも計画しています。それ以外に年間200件程度のIT起案がありますが、数百人月かかるシステムでも数人日で済むシステム改修でも、ROI(投資収益率)を常に意識し、全ての案件で本当に効果が見込めるのか、投資対効果が出るのかを検討します。それが会社の生産性に結び付く。投資回収は大きな案件なら5年が1つの基準。数人月や数人日なら1、2年で回収しています。