新型コロナ禍が明け、食品スーパー業界に新しい動きが目立ち始めている。ディスカウント系スーパーが台頭する一方で、ドラッグストアとの競合も激しくなる中、食品スーパーは何を武器に生き残ろうとしているのか。流通業界の専門誌、月刊『激流』編集長の加藤大樹氏に聞いた。
消費マインドの冷え込みに対し、どう知恵を絞るか
――食品スーパー(SM)業界はこの数年、どのようなトレンドでしたか。
加藤大樹氏(以下敬称略) 新型コロナ禍前の2019年までは、既存店の売上が下がり続けていました。人手不足も深刻で、新店を出す時に、旧店を閉店してその人材を新店に充てたという話を聞くほど大変な状況でした。
2020年に入っても人口減で国内消費は低迷しており、弊誌でも最後の起爆剤が東京五輪だろうという企画を組んでいました。ところがその数カ月後に新型コロナウイルスのパンデミックが始まると、SMにお客が戻って来ました。外食ができず家で食事をしなければならなくなった消費者が、食料品を買い求めるようになったのです。
3密(密閉・密集・密接)を避けるためSMが販促を控えたことで経費が節減でき、利益率が改善、結果として業績が一気に回復しました。
――言い方が適切かどうか分かりませんが、コロナが追い風になったのですね。
加藤 翌2021年も引き続き好調でした。しかし、2022年にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、環境がまた大きく変わります。穀物などの原材料価格と電気代などのエネルギー価格が高騰し、コストが大幅にアップしたからです。
すぐに価格転嫁することは難しく、その対応は大変でしたが、その後商品の単価が上がり、2023年の業績は比較的良かったと言えます。しかし今期に入ると、円安の影響もあって物価が上がり、節約のため、お客は買上点数を減らすようになりました。
それまでSMは客単価の上昇で業績を伸ばしていたのですが、買上点数が減り、一品単価(お客一人の一品当たりの平均購買額)の上昇も緩やかになってきたため、肝心の客単価(お客一人の買い物一回当たりの平均購買額)も上がりにくくなってしまいました。今は消費マインドがより冷え込んでおり、人手不足対策で賃上げもしなければならず、相当知恵を出さなければいけない状況になっています。