「年収の壁(※)」を見直すべきだ──。ライフコーポレーション(以下、ライフ)社長で日本スーパーマーケット協会(以下、JSA)会長の岩崎高治氏はこう主張する。衆院選を機に、にわかに注目が集まる年収の壁。スーパーマーケット業界はなぜ改革を求めているのか。(前編/全2回)
※税金や社会保険料の負担が生じ、手取り金額が減少する年収のボーダーラインのこと。「103万円の壁」は、年収が103万円を超えると所得税が課税されることを指す。「106万円の壁」では健康保険料や厚生年金などの社会保険料の負担が発生する。「130万円の壁」を超えると、親や配偶者の社会保険の扶養から外れ、自ら社会保険料を支払う必要がある。「150万円の壁」は配偶者特別控除(満額38万円)が段階的に減っていくライン。
JSAが独自の検討会を設置したワケ
──岩崎さんは以前から「スーパーマーケットを持続可能な運営にしていくためにも、『年収の壁』を見直さなければならない」と主張されてきました。なぜでしょうか。
岩崎高治氏(以下敬称略) 物価高が進行し人口減少も加速度的に進む中、安定的に人手を確保していくためには、前時代的な雇用と税・社会保険の仕組みを見直していく必要があると考えているからです。
日本の食品小売市場は年間50兆円と個人消費の中では最大規模であり、雇用面でも120万人の労働者が働いています。特筆すべきは、働く人の約80%が「パートタイム労働者」であることです。
特にコロナ禍以降、物価高と人手不足が同時進行しており、各社とも「パートさんの時給を上げてもシフトが埋まらない/人が集まらない」という状況に陥っていました。なぜ、時給を上げたはずなのに、人手不足は解消しないのか──。
その大きな理由が年収の壁、中でも1995年以降固定されている「103万円の壁」の存在です。企業としては「時給も上げたし、もっと働いていただきたい」と願っているのに、パートの皆さんは「これ以上年収が上がると、税・社会保険負担も上がる」と考え、就労時間を調整しています。
当然ですが、デフレ脱却と賃上げはセットです。物価が上がり賃金も上がる、結果として消費が喚起され、緩やかなインフレ傾向になっていくというのが理想ですが、肝心の「賃金が上がる」という部分が、103万円の壁の存在によって実現できなくなっているのです。
───デフレ脱却を、103万円の壁が阻んでいる面があるということですね。