アイシン取締役・執行役員の鈴木研司氏(撮影:酒井俊春)

「今は例えるならサーフィンのよう。常に状況変化に気を配り、大きな波も乗りこなさなければならない」。急速なEVシフトをはじめ、AIによる自動運転技術の高度化など激変期にある自動車業界を、大手部品メーカー、アイシンの鈴木研司取締役・執行役員はこう例える。同社では、この激変期を乗り切るデジタル戦略を「プロセスの革新」と「社会課題の解決」という2つのテーマで進める。DX戦略の司令塔である鈴木氏に、ものづくりとテクノロジーの関係、DXの重点分野などを聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2023年6月13日)※内容は掲載当時のもの

変革のスピードは想定を超えつつある

――電動化、自動運転などによって「100年に一度」と言われる変革が自動車業界に起こっています。大手自動車部品メーカーとして、その状況をどう捉えていますか。

鈴木 研司/アイシン 取締役・執行役員 Chief Software & Digital Officer DX戦略センター センター長 CSSカンパニー President

1984年アイシン・ワーナー(当時)入社。電子技術部、EV技術部、解析技術部を経て2011年に同社取締役。2020年同社副社長に就任。2021年の経営統合によりアイシン副社長執行役員。2021年6月より現職。

鈴木研司氏(以下敬称略) 確かに、長年自動車業界で開発の仕事をしてきた中でも最大級の変化が起きていると思います。一方で、この変化は一夜にして突如起こったわけではありません。

 当社はハイブリッドやEV(電気自動車)の技術開発には、1990年代から取り組んできました。電動化についても、新規事業という捉え方はしていません。過去から続いてきた変化への対応を続けるだけだという認識です。

 そして、当社にとってこの変化は、決して脅威やネガティブなことではありません。特に注目しているのは、変革期は他業種からの参入が増えるということです。新しい企業との出会いは、当社にとって成長のチャンスだと思っています。

――突如出現したのではないとはいえ、ここ数年の変化はあまりにも激しく感じられます。新しいEVメーカーも登場しており、先日の上海モーターショーでも、中国EVメーカーの勢いのすさまじさを感じました。

鈴木 その認識は間違っていません。われわれが当初想定していたものよりかなり速いペースでEVシフトが進んでいます。どう変化するかだけでなく、変化自体のスピードにも注意を払って、遅れずに対応する必要があります。

 世界各地の事業は、現地法人だけで完結するものではありません。特にEVなどのコア技術には、本社の大きなリソースを投入することになります。中国市場はこう、北米はこうと個別に戦術を決めるのでなく、グローバル全体のリソースを、優先順位を決めて適材適所に振り向ける必要があります。

 このような企業としての変化対応力を高めるため、当社グループでは2021年に主力事業の自動車用変速機を手がけるアイシン・エィ・ダブリュとアイシン精機の経営統合を行い、経営体制を強化しました。

 これまでは本社の大方針の下で、各子会社が独自に戦略を立て、実行してきました。しかし大変革の波の中、グループ内で切磋琢磨している時間の余裕はありません。当社グループの外、さらにトヨタグループと他社グループとの競争も激化しています。

 200社を超える当社グループ全体の戦略を素早く決め、同じベクトルで外に向かって戦うことが重要になります。そのために、意志決定プロセスの無駄な階段を減らしました。すでに社内でグループ全体の議論が増えており、経営がスピードアップしたことを感じています。