半導体商社マクニカの躍進が目覚ましい。半導体とネットワーク分野の急成長によって、2020年3月期の5200億円から2023年3月期には1兆293億円へと売り上げが倍増、「売上高1兆円クラブ」入りを果たした。この成長の裏には、IT本部の改革があった。市場の変動に対応できるだけの、新たなデジタル基盤を築くための改革である。本連載では、このIT本部の改革に焦点を当て、躍進の秘密を詳細に追っていく。
第1回では 「次世代システム」導入よる業務改革の成果を、第2回 では「稼ぐIT」の狙いを取り上げた。第3回ではマクニカのIT人材の育成法に迫る。
連載ラインアップ
■第1回 売上高が2年で倍増し1兆円突破、マクニカの躍進支えた「10年後も楽しく働く」ための次世代システム
■第2回 「成長」の次は「改革」へ投資、マクニカが目指す「稼ぐIT」とは?
■第3回 今のままではIT部門は不要に・・・CIOの危機感から生まれたマクニカの「アジャイル型組織改革・人財育成」(本稿)
■第4回 「稼ぐIT」をどう実現? マクニカが挑む「6つの新規事業」と専門家集団「DXファクトリー」構想とは
■第5回 マクニカCIO・安藤啓吾氏が語る、「IT改革」の3つの施策、「稼ぐIT」への挑戦、そして「2030年の到達点」
■第6回 マクニカCIO・安藤啓吾氏が語る「稼ぐCIO」の条件、「デジタル人材」に必要な3つの力とは?
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IT業界は人材不足なのか?
経済産業省が2018年に出した「DXレポート」が、今改めて注目されている。サブタイトルは「~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」。日本企業が抱え続けた古い基幹システムを切り替えずに放置した場合、企業存続さえ困難にする、と警鐘を鳴らす。日本国内で古いシステムが残存することによる経済損失は最大で年間12兆円。切り替えできるギリギリのタイミングを捉え「2025年の崖」と名付けられている。
このレポートが改めて話題になったのは2025年まであと1年を切ったからだ。指摘されている課題の多くは、いまだ解決されていない。このレポートでは、システム刷新やDXが進まない理由の一つとして人材不足を挙げている。
2015年時点で17万人不足していたIT人材は、2025年時点には約43万人に拡大すると予測する。この数字の確度はともかく、人材不足が深刻化していることは確か。企業の採用担当者らの「人が採れない」との嘆き声が年々大きくなっていることからも分かるのだ。
ただし、今企業内にIT人材がいないのか、といえば違う。企業のIT部門で働いている社員はいる。「企業が求めている即戦力となる人材、先端技術・専門知識を備えた人が採れない」と言っているのだ。まさにスキルのアンマッチ、スキルギャップこそが「IT人材不足」の本質だ。
「現状維持の姿勢では、現状を維持することすら難しい」
「かつて社内のIT部門と言えば、基幹システムやネットワークなど、社内のユーザーからの要望に従って、システムを開発、運用することがメインの仕事でした。いわゆる、ユーザーが要件を出す人で、システム部門は作る人という関係です。
ただ、昨今のAIをはじめとしたテクノロジーの進化で、今や誰もが簡単にシステムを作れる時代が来ています。つまり、このままでは、IT部門は不要になってしまうということです。現状を維持する姿勢を取っていては、現状を維持することすら難しくなるのです」
マクニカは2022年、IT本部の組織変革に取り組み始めた。そのキックオフミーティングで、安藤啓吾CIOはこんな厳しい未来の話から始めた。
「では、ITが不要になるかと言えば、違います。現在、2030年に向けて、会社の在り方・稼ぎ方を変えようとしています。10年後、この会社では、IT・DXのスキル・知識を持った人たちに担ってほしい役割や仕事は増えているでしょう。その新しい仕事を担うプロフェッショナルが集う場になるように、IT本部を変えていきたいと思っています」。(安藤CIO)