三菱商事 執行役員 マテリアルソリューショングループ 新規事業開発本部長の渡邉善之氏 ※取材時(撮影:榊水麗)

 三菱商事の素材部門で進める新規事業開発が、いくつかの具体的な成果を挙げつつある。従来の事業投資よりも踏み込んだ社内外のコラボレーションで、長期的な素材産業全体の成長に挑む。狙いは何か。新規事業開発本部長の渡邉善之氏に聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年10月23日)※内容は掲載当時のもの

日本の素材メーカーが抱える危機的状況とは

――三菱商事が、素材産業の分野で新規事業のビジネスに取り組む理由は何ですか。

渡邉善之氏(以下・敬称略) 日本の素材産業は、高度経済成長の波に乗り、自動車、家電という裾野の広い産業に支えられて大きく成長してきました。

 世界の市場で高いシェアを獲得する企業も存在する一方で、真のグローバル化が進む今、素材産業のグローバル化は実は遅れていると言わざるを得ない状況にあります。

 というのも、素材産業は好調だった製品の素材として間接輸出されてきたことにより、その恩恵を受けてきました。しかし2000年以降、各国との競争が激化する中で、一部の自動車を除けば、製品市場で日本製品のシェアは失われてきました。

 国内製品メーカー向けが開発の中心だった素材メーカーは、こうした環境が変化することで、戦略の変更を迫られています。世界の列強と比べて、日本の素材メーカーは基本的に事業規模が小さく、各社はいわゆる「ニッチトップ」を目指していますが、市場全体の動向をつかみながら、特定分野に特化した事業方針を立てていく必要があります。

 市場の変化に拍車をかけるのが世界的な「カーボンニュートラル」の潮流で、欧州が世界をリードして、業界のルール変更を相次いで発表しています。そんな中、国内製品メーカーの目の前の課題解決に注力してきた素材メーカーは、結果として間接的な情報を基に戦略を作ってきたことで、今大きな危機に直面していると個人的には感じています。

 メーカーだけが世界の潮流に取り残されるのではありません。私たち商社も同じです。過去の需要と供給をつなぐ「トレーディング」だけをしていれば利益を挙げることができ、メーカーから感謝されるような時代はすでに終わっています。極論すれば、インターネットが浸透した時代、トレードだけなら商社をパスすることもできます。