2024年1月にアシックスの社長COOに就任した富永満之氏は、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、日本アイ・ビー・エム、SAPジャパンなどを経て2018年にアシックスに入社。以来、CIOやCDOを務め同社のデジタル戦略をリードしてきた。トップ就任と同時に始動した3年間の「中期経営計画2026」では、グローバル化とデジタル化の一層の深耕が掲げられ、同氏のこれまでのキャリアがどう生かされていくのか注目が集まる。果たしてアシックスのさらなる成長をどのように進めていくのか、富永氏に話を聞いた。
市場シェア伸び悩みの時期に打った「飛躍への布石」
――富永さんはアシックスに入社された2018年から主にデジタル戦略を推進してきました。社長就任に当たり、入社以来の6年間の会社の取り組みと現状をどう評価していますか。
富永満之氏(以下敬称略) 最初の3年間はマーケットシェアが伸び悩んだり赤字に陥ったりと大変な時期でした。その後はコロナ禍も続きましたが、その間も社長(現代表取締役会長CEOの廣田康人氏)が飛躍への布石を着々と打っています。
まず組織面では、商品カテゴリーごとに責任者を置き、2019年に商品企画から生産、販売まで全ての責任を持つ経営管理体制にして、従来の機能別組織を統合しました。
また、商品面では大幅なクオリティアップによる競争力強化を図りました。2021年の正月の箱根駅伝では、当社のシューズ着用率は厚底ブームに出遅れたこともあり、ゼロでした。その後、社長直轄組織「C(頂上)プロジェクト」によって開発した「メタスピード」という商品で巻き返すことができ、今年の箱根駅伝では着用率シェアがおよそ25%まで伸びていますし、3月の東京マラソンでは38.9%(アシックス調べ)とシェアナンバーワンになっています。
販売チャネルの面でも従来の卸売りの比率が下がり、eコマースと直営店を合わせたDtoC(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)モデルの比率を40%まで高めたことで、粗利益が大幅に向上しました。ただ、それだけでは単に卸売りからeコマースなどにシフトしただけになってしまいます。
そこでランナーの行動に沿って商品やサービスを提供するランニングエコシステムを構築して直接お客さまとコミュニケーションし、プロダクトだけでなくサービス面も強化してきました。私が担ってきたデジタルインフラの整備やデータ分析の蓄積も進んでいますので、大きな強みになってきていると思います。