パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー エバンジェリストの一力知一氏(撮影:千葉タイチ)

 日本経済の衰退や凋落といった文脈の中で、矢面に立つ機会が多い製造業。この状況を改善すべく、現場の作業プロセスやサプライチェーン改革を推進しているのが、パナソニック コネクトでエバンジェリスト、エグゼクティブコンサルタントを務める一力知一氏である。パナソニックグループでの変革も含め、数多くの企業の変革に携わり成果を上げてきた一力氏に、製造業の経営競争力の高め方について聞いた。

どの領域に注力するべきかを見極める

――製造業の競争力が課題となっています。パナソニック コネクトでは「そもそも競争力とは何か?」を明確にする必要があると提言していますね。

一力 知一/パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー エバンジェリスト

データベースシステム開発、製造系基幹システム導入プロジェクト、経営企画、IoTによるスマートファクトリー・スマート物流構築などに従事。現在は、社内で実践したオペレーション知見とパナソニックのデジタル技術を組みわせた「IEとDXの融合による経営オペレーション変革」を中核とするデータ駆動型経営オペレーション構築のコンサルタントとして社外のサプライチェーンにおける経営プロセス変革を推進。2022 年より京都女子大学 データサイエンス学部の客員教授にも就任。

一力知一氏(以下敬称略) 企業の競争力の源泉となり得る領域にはさまざまなものがあります。当社では、大きく「表の競争力」と「裏の競争力」に分けられると考えています。表の競争力とは、デザインや性能、価格などのこと。裏の競争力とは、生産コストやリードタイム、物流、保守メンテ、サプライチェーンマネジメントなどです。

 表の競争力にのみ注目が集まりがちですが、実は日本企業は表と裏の両方の競争力を持っている。競争領域を多く持っているということは、強みになり得る要素が多いということです。

 さらに言うと、DXのような改革を進めることによって、より大きな経営効果を得られるのは表と裏のどちらの競争力なのか。それは裏の競争力です。この領域を突き詰めることが、日本の製造業の経営競争力を高めることにつながると考えられます。

 では、裏の競争力を強化するにはどうすればよいのか。この裏の競争力を強化しようとする際に役に立つ概念として、当社では「インダストリアルエンジニアリング(以下、IE)」を採り入れています。IEは難しい概念ではありますが、端的に表現すると、現場を「可視化」「標準化」「最適化」していくプロセスそのものと言えます。

 現場のカイゼンのような話をすると、経験的に「現場をカイゼンしたところで経営への影響力はそれほど大きくない」と考える人がいるかもしれません。ここで、デジタルの活用がポイントになります。デジタルとIEは親和性が高い。2つを組み合わせることで、カイゼンのスピードが増し、経営への影響力を高めることが可能になります。