東洋紡は2023年4月、同グループのIT運用を担ってきたシステム子会社、東洋紡システムクリエートを吸収合併した。狙いはシステム子会社のメンバーを東洋紡本体に集約し、DXを加速させることだった。新たなDX組織では、組織体制の再構築と強化、現場に精通するDX人材の育成が進められている。これらの取り組みを牽引するのは、長年カネカのIT部門を率い、2022年に東洋紡に入社した執行役員 CDO デジタル戦略総括部長の矢吹哲朗氏だ。同氏に取り組みの詳細を尋ねた。
システム子会社を東洋紡本体に集約、DX組織へと変身
――東洋紡ではシステム子会社の東洋紡システムクリエートを2023年4月に吸収合併しました。どのような理由があったのでしょうか。
矢吹哲朗氏(以下敬称略) 当社のDXを加速させるために他なりません。繊維業界は変化の時期を迎えており、事業ポートフォリオの組み替えや新事業・技術の創出が急務となっています。実際に中期経営計画では、2022年からの4年間を「つくりかえる・仕込む4年」と位置付けました。
新事業や技術の創出にはDXが不可欠です。しかし当社は決してDXの先進企業ではありません。そこでまずは2022年にDXのロードマップを作成し、2023~2030年の計画を立てました。
取り急ぎ目指しているのは、サイロ化している社内外のあらゆるシステムをセキュアにつなぎ、新事業を協創できるIT環境を作ることです。同時に、DXを推進する組織の確立や人材の育成を行わなければなりません。
そこでシステム子会社を吸収合併し、DX組織として東洋紡本体に集約しようと考えたのです。実際に子会社のメンバーが中心となり、すでにあった前身のDX組織を発展させる形で「デジタル戦略総括部」を立ち上げました。百数十名の部隊となっています。
――今までは外からグループのIT運用を担っていた東洋紡システムクリエートが、中に入ってDXを推進する組織になったと。
矢吹 ただしミッションがIT運用からDX推進に変われば、組織に必要な機能も業務フローも子会社の頃とは大きく変わります。例として、これまではシステムの保守・運用をはじめ、やるべきことや課題が最初から明確にあり、それらを計画に沿って遂行する業務が中心でした。
しかしDX推進の組織になれば、やるべきことや課題を探すところから始まります。組織の機能やメンバーに求められるスキルは大きく異なります。ですから子会社をそのまま社内に持ち込むのではなく、組織構造やメンバーの育成計画を練り直す必要がありました。