jetcityimage - stock.adobe.com

 なぜ日本のメーカーはイノベーションが苦手なのか? マネジメント、ビジネスモデル、組織構造、企業文化、人材教育などをどう変えれば克服できるのか? 三菱自動車で世界初の量産型電気自動車「i-MiEV」(アイ・ミーブ)の開発責任者などを歴任したe-mobilityコンサルタント・和田憲一郎氏が、世界で進むEVシフトや時代の変化に適応するためのマネジメント法など、「新時代のモビリティ」について複眼思考で解説する。

テスラはなぜ多くの電気自動車を販売できるのか

 自動車メーカーは、規模は大きいものの、多種多様な商品を開発しない単一産業のためかイノベーションが起こりにくい。その中でも、イノベーションを起こしているメーカーといえば米国のテスラと中国のBYDであろう。日系自動車メーカーではハイブリッド技術や燃料電池技術の例はあるものの、相対的にイノベーションが苦手ではないだろうか。

 では、なぜ日系自動車メーカーはイノベーションが苦手なのであろうか。特に電気自動車(以下、BEV)でイノベーションを起こしているテスラを参考にしながら、その理由について筆者の考えを述べてみたい。

 テスラは、2023年にBEVを約180万台(対前年比約37%増)販売した。一方、BYDはBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)を販売しているが、BEVだけでは約157万台である。そのため、23年時点でテスラがBEVの販売台数で世界の頂点に立つ。なお、自動車メーカーの規模感でいえば、23年にマツダ約124万台、スバル約96万台であり、テスラはBEVのみでこれらの企業をしのぐ。

 では、なぜテスラは多くのBEVを販売できているのであろうか。テスラは他の自動車メーカーと異なり、多くのイノベーションを起こし、商品力やブランド力の向上につなげてきた。テスラのイノベーションは数多くあるが、代表的な例を3つ挙げてみたい。

① OTA(Over The Air)

 いわゆる自動アップデートである。既にパソコンでは当たり前であるが、テスラはこれを12年にModel Sから盛り込んだ。当時、日系自動車メーカーは、OTAに対してナビ情報の最新化などでディーラーの収益を損なう、まだ自動車には必要ないと様子見をしていた。

 その後、自動運転ソフトウエア、セキュリティーソフト、インフォテインメント用の基本OS、通信用ソフトウエアなどがOTAによりアップデート可能となり、ユーザーにとってその都度自動車をディーラーに持参しなくてもよくなり、一気に利便性が高まった。

 特に、20年6月国際連合欧州経済委員会の下部組織「自動車基準調和世界フォーラム(WP29)」にて、自動車へのサイバー攻撃対策を義務付ける国際基準(UN規則)が採択された結果、国土交通省はサイバーセキュリティーやソフトウエアアップデートに関して、国際基準を国内の保安基準にも導入する法令整備を行うこととした。現在、OTAは日系自動車メーカーにとっても法令順守項目となっている。まさにテスラのイノベーション事例であろう。

② 統合ECU(Electronic Control Unit)

 OTAに関連した内容となるが、テスラはModel Sから一気にECUを統合した。筆者が調査・分解に参加したModel 3では、統合ECUと呼ばれECUは4個に集約されていた。従来の自動車であれば、分散型ECUとして、ECUは60~80個、多い車種では100個余り存在していた。しかし、4個に統合することで、集中開発が進むとともに、OTA機能に対しても臨機応変に対応できるシステムとなった。

 メリットの多い統合ECUであるが、実現には多くの課題がある。日系自動車メーカーは、これまで多数の部品メーカーに仕様書ベースで開発依頼をしていたが、今後OTAでは業務の統廃合が必須となる。また膨大なソフトウエアエンジニアが必要となるだろう。テスラのように社内開発できれば問題ないが、日系自動車メーカーはそれほど多くのソフトウエアエンジニアを抱えておらず、統合ECU実現のためのハードルは高い。

分散型ECU vs. 統合ECU

③ ギガプレス

 最近注目されている技術である。テスラはModel Yからギガプレス(ギガキャストとも呼ばれる)という特殊アルミ合金による一体化部品をリアシャシー部品、フロントシャシー部品に投入した。それにより多くの部品が不要となり、それぞれ前後1個で構成される構造となっている。その成果として、大幅なコスト低減、軽量化、品質向上ができたようだ。採用した特殊アルミ合金材料は、テスラ技術者と宇宙企業スペースXの技術者が培った技術を用いて多様な材料を混入して開発したとのこと。超大型の特殊アルミ合金の製造は、金型も含めやり直しが利かないことから、設計段階でCAE(Computer Aided Engineering)による衝突安全性の確保など、これまでにない技術の詳細解析により実現できたようだ。日系自動車メーカーでも、ギガプレス導入の声が上がっているが、実現には相当ハードルが高いと思われる。