湖池屋代表取締役社長の佐藤章氏(撮影:内海裕之)

 キリンビールやキリンビバレッジ在籍時に“凄腕マーケター”として知られた佐藤章氏が、湖池屋社長に就任したのは2016年のこと。就任早々から大変革に着手し、社名や企業ロゴ、商品を矢継ぎ早に大刷新、低迷していた同社を見事に再生させている。佐藤氏が考える商品戦略やマーケティングの要諦、湖池屋が目指す未来像とはどんなものなのか、じっくりと話を聞いた。

<ラインナップ>
【前編】湖池屋を再生させた凄腕マーケター、佐藤章社長が挑む「ポテトチップス革命」(本稿)
【後編】沈滞する湖池屋を「イノベーションを生み出す組織」に変貌させた社長の手腕

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「オタクがセンターを張る時代」を確信してリスタート

――2017年に発売した「湖池屋プライドポテト」を皮切りにヒット商品が続々と生まれ、業績も好調です。

佐藤 章/湖池屋代表取締役社長

1959年東京都生まれ。1982年、早稲田大学法学部を卒業後、キリンビールに入社。1997年にキリンビバレッジ商品企画部に出向。1999年に発売された缶コーヒー「FIRE」を皮切りに、「生茶」「聞茶」「アミノサプリ」など大ヒットを連発。2008年にキリンビールに戻り、九州統括本部長などを経て、2014年にキリンビバレッジ社長に就任。2016年にフレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月に湖池屋代表取締役社長、2021年に日清食品ホールディングス常務執行役員(現任)。2017年に発売した「湖池屋プライドポテト」の大ヒットに続いて、「ピュアポテト」、「湖池屋ストロング」を成功へと導き、ポテトチップスの老舗・湖池屋の代表として、新しい食への挑戦を続けている。
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座右の銘:隗より始めよ
尊敬する経営者:安藤宏基、安藤徳隆(日清食品)
変革リーダーにお薦めの書籍:『反経営学の経営』(常盤文克、片平秀貴、古川一郎著)

佐藤章氏(以下敬称略) 昨年(2023年)は「湖池屋ポテトチップス のり塩」を発売して60年が経ち、会社も創業70年という節目でした。そこで、3月に「湖池屋ポテトチップス」を大幅リニューアルし、9月には「じゃがいも心地」のブランド名を「ピュアポテト」に変更しました。それ以外の「スコーン」や「カラムーチョ」といった定番商品もすでにリニューアルしています。

 おかげさまで、いずれの商品も販売は好調です。今年は湖池屋を復活させる起点になった「プライドポテト」もリニューアル発売する予定です。

――佐藤さんが湖池屋に移籍するまでポテトチップス市場はカルビーが圧倒的なシェアを持ち、湖池屋の存在感は正直に言って希薄でした。

佐藤 かつて、ポテトチップスが1袋150円で売られていたところに競合他社が100円で参入し、我々はあっという間にシェアを奪われていったわけです。しかしながら、湖池屋のポテトチップスの「のり塩の味が好きなんだ」とか「あの堅さがいいんだ」など、こだわりを持って食べてくださるファンの方もしっかり残ってくださっていました。

「ポテトチップス」(写真提供:湖池屋)

 ですから競合他社と同じような低価格ゾーンでは戦わず、支持していただいている方々向けに、より付加価値をつけた商品をご提供する方向に徹底的に振り切る戦略に変えています。換言すれば、ポテトチップスの味や食感にとことんこだわる方々、いわば“オタクがセンターを張る時代”という考え方を基にリスタートしたわけです。それが「プライドポテト」の商品化にもつながりました。

「湖池屋プライドポテト」(写真提供:湖池屋)

 たとえば、AIなど最先端技術が進化する時代になればなるほど、オタク気質と言いますか、人間味要素も必要になってくることを、湖池屋ファンのみならず、みんなが潜在的に感じているのではないでしょうか。その点、我々は人間味というような情緒価値を前面に出していくことは得意ですし、そこを疎かにしてはならないと、事あるごとに社内で説いてきました。

 また、SNSの浸透によって消費者をマスや平均値で見ず、お客さま一人一人にどうカスタマイズした商品を出していけるかが勝負の時代であり、これもある種、オタクに向けたマーケティングといえます。そこに湖池屋が仕掛ける戦略や商品がフィットし、お客さまが求める価値に同期できたことでヒット商品が続いているのだと思います。

 よくLTV(生涯顧客価値)という言葉を聞きますが、熱心なファンを長く大事にしていくという我々のスタンスが、メガヒットが出にくい多様化の時代とうまくシンクロしたような気がします。

湖池屋の売上推移
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