丸亀製麺は外食業界の常識を覆すようなさまざまな奇跡を起こしてきた。その象徴的な事例がコロナ禍の真っただ中の2021年4月から「丸亀うどん弁当」を販売し、業績を伸ばしたことだ。累計食数は3500万食(2023年4月末)を記録し、コロナ禍が過ぎ去った今でも既存店(開店から1年以上経過した店舗)の売上は二桁増を継続している。
客単価約700円という日常使いできる価格でありながら丸亀製麺はなぜ成長を続けられるのか。その成長はどのようなマーケティング戦略に基づいているのだろうか。同社でマーケティング本部長を務める南雲克明氏の話からひもといていく。
<ラインアップ>
■【前編】奇跡を生み出す秘訣、丸亀製麺のマーケティング戦略はここまでロジカルだった
■【後編】感性とサイエンスの両立が鍵、「丸亀シェイクうどん」を生んだマーケ戦略とは
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「競争しない」独自の魅力を磨いていく
丸亀製麺が重視するキーワードは3つある。
1つ目が「競争しない」。価格競争となれば利益は削られる。その先には未来がないと考え、いかにして「競争のない構造的優位」を創るかを考える。
2つ目が「最重要はKANDO(感動)」。お客は集めるものではなく創るものである。KANDO(感動)こそがお客さまを創造する源泉で、お客さまはこれを求めて来店する。
3つ目が「二律両立」(トレードオン)。トレードオフではなく、トレードオンこそ価値を生み出すという考え方をもっている。通常は反比例する事柄でも自らの強さになると考えれば、その両方を追求。それにより、独自の市場を創造し構造的優位を構築する。
丸亀製麺は「本能が歓ぶ食の感動体験を探求し世界中をワクワクさせ続ける」をミッションにしているが、その背景にこうした考えがあると記せば、その目指すところが具体的にイメージできるだろうか。このミッションで丸亀製麺が目指すのは顧客体験価値(CX)を高めるということだが、その目指すところは「お客さまの期待を超えることでお客さまがKANDO(感動)する」という極めて高い水準にあるのだ。
南雲氏は語る。「持続的に選ばれ続けるブランド・企業になるには、そのブランドでしか体験できない顧客体験価値をつくることが重要です。そして、それを時代に合わせて進化させ続けていきます」
これが丸亀製麺のマーケティング部門の最も重要な役割で、南雲氏は「社内に顧客起点でわれわれが目指す姿を示し、他部署も巻き込んで実現させています」と語る。
CX向上のためには「全社一丸」となることが重要だと考える南雲氏。丸亀製麺では各部門の全ての戦略・行動が「顧客体験価値向上」を実現するように設計されている。
それは、南雲氏が社内で他部門の部門長と話をするときにも表れており、必ず「それによってCXが向上するのか、KANDO(感動)創造につながるのか」を会話のゴールにしているという。こうしたコミュニケーションは今では丸亀製麺の企業文化となっているのだ。
消費者の左脳と右脳にアプローチする
南雲氏は丸亀製麺のマーケティング戦略を「KANDO(感動)ドリブンマーケティング」と呼んでいる。これと、先ほど紹介したミッションを含む企業理念の関係を整理したのが、下の図だ。
このマーケティングの目的を南雲氏は「選ばれる確率を高め続け、持続的な成長を実現すること」と話す。その流れを詳しく説明したのが下の図だ。
顧客を創造する価値の源泉「KANDO(感動)」は、「一軒一軒が製麺所」「手づくり・できたてのおいしさ」「人の力」によって実現させるが、この相乗効果で「『うどんがおいしい』というイメージを最大化させます。これがお客さまがまた行きたいという気持ちになるキードライバーとなるのです」(南雲氏)。
また、同社では消費者へのアプローチを左脳(理性)と右脳(直感)で考える。それを示したのが、下の図だ。
左脳へのアプローチでは「すべての店で粉からうどんをつくる」「職人の手づくりだから、ほかとは違う」といった選ばれる理由・パーセプション(認識)を創る。右脳へのアプローチでは「おいしそう!」「食べたい!」といった選ばれる衝動を創る。
「顧客体験に関しては、どちらかというと右脳の方に刻まれて『また買いたい』『また行きたい』という動機につながるのですが、左脳・右脳の両方にアプローチした方が確率の高いマーケティングができると考えています」(南雲氏)という。