今年3月にアサヒビールの新社長に就任した松山一雄氏は、P&G出身の“凄腕マーケター”として数々の実績を残してきた人物だ。アサヒの主力商品「スーパードライ」のリニューアルも成功させた同氏は、ビール市場が年々縮小する中でどんな舵取りをしていくのか。本人を直撃した。
社内会議で徹底した「WHO、WHAT、WHY」
2018年9月に「専務取締役 専務執行役員マーケティング&セールス統括本部長」という肩書きでアサヒビールに招聘された松山一雄氏が、今年3月、社長に就任した。アサヒ入社前に一消費者としてビール業界を眺めていた松山氏には、課題が数多く見えていたという。同氏がこう振り返る。
「アサヒに入社してみて衝撃だったのは、お客さまとか消費者という言葉が会議の場でほとんどなかったこと。こういう商品をこのタイミング、価格で出しましょうとか、競合他社があれを出したからウチもこんな商品を出しましょうとか、まず商品ありきでした。
つまりお客さま不在の競争。これはビール業界全体の悪しき慣習だったと思います。ビール市場は年々縮小するゼロサムゲームなのに、前例踏襲したり競合追随したり、あるいは同質化競争から脱することができず、テレビCMも似たり寄ったりで退屈な市場という印象がありました」
松山氏がマーケティング本部長に就いて以降、いわば顧客不在のマーケティングを軌道修正すべく取り組んできたわけだが、社内会議の場で徹底したことがあったという。
「マーケティングに限らず、営業、商品開発等、どの会議であれ、提案の中に必ず『この商品やサービスはどんなお客さまに向けたものなのか?』『そのお客さまにどういう独自価値を提供する話なのか?』『それをアサヒビールがやることでお客さまが喜び、かつビジネス上の競争でも勝てると考える理由は何か?』という軸は必ず入れます。
つまりWHO、WHAT、WHYの3つの視点が弱いと議論が浅くなるので、最初の段階であまり煮詰まってないと思えば、『もっと深掘りしてから議論しようじゃないか』と差し戻すようにしています。
もう1つ、売り上げのボリュームやシェアといった結果指標よりも、お客さまの態度変容の度合いを重視しています。すぐに購買に直結しなくても、たとえばAという商品が認知されて興味を持ってもらえたら、消費者の態度変容をデータで可視化できるようにして、そのデータを本部と一緒にやる会議の中で見てもらう。そして、次のステップで、態度変容を購買行動に変えてもらうために何をすべきかというプロセスに入ります」(松山氏)