サッポロホールディングス取締役の佐藤雅志氏

社内のビジネスコンテストから生まれた「うちれぴ」

 サッポロホールディングスの尾賀真城社長は常日頃から、「我々にしかできないことをやっていく必要があり、事業会社はそれぞれの存在意義をお客さまに示していくことが大事」と説いて社内を鼓舞しているが、同氏が今年の年頭挨拶でグループ全社員に発信したのが「全社DX推進宣言」だった。

 その中身は、(1)お客様接点の拡大(2)既存・新規ビジネスの拡大(3)働き方の変革──という3つのグループDX方針を軸に、「サッポログループにかかわるあらゆるステークホルダーと共に成長し続け、お客様と企業の価値最大化を目指していく」というものだ。

 新規事業や商品開発スキームでは、既に具体的な事例も出てきている。サッポロホールディングス取締役で総務部、人事部、ITDXを担当し、サッポログループマネジメント社長も兼務する佐藤雅志氏はこう語る。

「新規事業では、おうちにある食材からつくれるレシピを提案し、料理を通じた家族コミュニケーションができるアプリ『うちれぴ』があります。この事業は2018年に行った社内のビジネスコンテストから上がってきた案件で、以来、実証実験やβ版アプリなどを経て、今年7月に正式版をスタートさせました。こうした食のコミュニケーションアプリはこれまでありそうでなかった仕組みです」

 レシピ提供企業には、ポッカサッポロフード&ビバレッジや神州一味噌といったグループも含まれるが、キユーピーやミツカン、日清オイリオグループなど、外部企業を含めトータル20社余りが名を連ねている。

「このアプリは、過去の家族のおいしかったレシピをアーカイブできたり、レシピにまつわる家族の感想や気持ちを記録できたりします。

 また、夏場は家庭で葉物野菜が余るという実証データが出ていることから、夏季は葉物野菜を使ったレシピを集中的にお知らせすることでフードロスの削減にもつながります。ウェブ上のレシピの紹介だけなら他にもたくさんありますが、食のコミュニケーションツールとしてのアプリ、かつ食品メーカーを中心にさまざまな協力企業のリンクを付けているのが、『うちれぴ』の特徴です」(佐藤氏)

「うちれぴ」は2026年にユーザー数目標100万人を掲げ、今後のデータ集積によって紙のチラシ脱却ニーズや食品メーカーの家庭実態データ取得ニーズなどを捉え、BtoBビジネスへの展開も視野に入れているという。

「食材やレシピ項目を入力すると、そのデータが、例えば調理家電の『ヘルシオ』(シャープ製)に飛ぶような仕組みを、シャープさんと連携して取り組んでいますし、将来、電子レシートが普及するようになれば家計管理はもちろん、食材の賞味期限管理などもできるようになるでしょう。今後も『うちれぴ』の改良を重ね、さらに機能性を高めていきたいです。

 サッポロビールのホームページでも人気レシピを公開していますが、ビールや飲料といった枠組みを超え、食に関わるあらゆることを『うちれぴ』を介して活性化していきたい。今はどの食品メーカーも1社単独ではなかなか生き残っていけない時代ですから、『うちれぴ』のようなべースインフラの中で他の企業と一緒に協力できることはしていきたい、という思いを持っています」(佐藤氏)

「うちれぴ」の仕組み