
三井不動産は、NTTデータ、TSIホールディングス等と協力して、入店率を高めるビジュアルマーチャンダイジング(以下、VMD。視覚的な販売戦略)改善の実証実験を行った。店頭のディスプレーをお客さまに見てもらえたか、VMDがきっかけで入店につながったかを、AIカメラ等のデータ解析を通じて検証する。
VMDは「Visual merchandising」の略称。マネキンに着用させるコーディネートによって店舗の前を通行するお客さまの入店を促したり、棚やラックの商品陳列を色や商品分類で見やすくすることで店内の滞在時間を伸ばすなど、販売員が直接接客をしなくても販売や売り上げにつながるようにする仕組みを指す。
一般的に商業施設内の客数は多いため、これまでテナントは自店の前をいつ、どういったお客さまが通行しているかを正確に把握することが難しかった。また、販売員が日々考えるマネキンのコーディネートやディスプレーといったVMDは、どこまでお客さまの心をつかんだかが分かりにくいという課題があった。VMDをきっかけとした入店率は、定性的に決定されてきたのが実状だ。
三井不動産株式会社DX本部DX二部DXグループ技術統括 越智将平氏(右) TSIホールディングス株式会社を経て、2021年入社。商業施設本部商業施設運営部イノベーション推進グループ兼務。/三井不動産株式会社DX本部DX二部DXグループ技術主事 岩本昌丈氏(左) 株式会社NTTドコモを経て、2018年入社。商業施設本部商業施設運営部イノベーション推進グループ兼務。
三井不動産のDXグループ技術統括を務める越智将平氏は、実証実験を行った背景についてこう語る。
「各店舗での運営は基本的にテナントにお任せしているものの、商業施設として各店舗に協力できることはないかと感じて今回の実証実験に至った。AIカメラで共用通路を撮影するなど個店では完結しづらい部分をサポートすることで、集客にも貢献できるのではないかと考えた」
三井不動産でDXグループ技術主事を務める岩本昌丈氏も、現在のお客さまの購買動向と施設の状況を解説する。
「ららぽーとTOKYO-BAYは大型商業施設なので、あらかじめ目的を決めての来店だけでなく、館内をぐるぐる回る中でショップを認知して入店するお客さまも多い。入店率を上げることは売り上げにもつながるため、お客さまとテナントとのマッチングを商業施設側としてもサポートしたい」
実証実験店舗に選んだ「ナノ・ユニバース」は、ららぽーとTOKYO-BAYの中でも集客力があり、運営元のTSIホールディングスがデジタルやオムニチャネルにも注力していることから決定した。
<実証実験について>
・実証実験期間:2022年10月15日(土)~11月28日(月)
・実験店舗:三井ショッピングパークららぽーとTOKYO-BAY「ナノ・ユニバース」
・店舗面積:約80坪
・店舗内設置機器/AIカメラ2台、赤外線センサ4台、デジタルサイネージ1台
・カメラ画像データの扱い:お客さまの年代・性別等の推定および視線や反応の把握のためにカメラ画像を活用。撮影した画像データは集計された数値データのみとして使用する。撮影した画像データは解析後自動的に破棄することで、お客さまの顔などの個人情報は直接確認できないようにする。
デジタル技術活用で正確なデータを計測して「勝ち筋パターン」を探る
店内に設置したAIカメラ。マネキンに直接付けると目立つため、目立たないような位置に設置してある
実証実験では、まず「ナノ・ユニバース」店頭にAIカメラ、赤外線センサ、デジタルサイネージを設置。今回は店舗売上げの元となる入店計測に的を絞り、店舗前の通行者数、店舗前のアテンション/認知者数、入店者数を計測する。
取得データ例(画像や数値は全てイメージ)
AIカメラではテナント通路前の通行者数と通行者の推定性別・年代、赤外線センサでは店内への入店客数、デジタルサイネージやマネキン前の滞在者数や滞在時間を計測する。
赤外線センサ。店内への入店数やサイネージ、マネキンの前の滞在者数、滞在時間データを取得する
ディスプレーやマネキン、デジタルサイネージといったVMDを構成するコンテンツのパターンは、毎週内容を変更することでA/Bテストを行う。コンテンツ内容によるお客さまの行動や反応を観察して、「勝ち筋パターン」を探ることが狙いだ。
デジタルサイネージでは、ショップ名の訴求、個別商品の訴求、キャンペーン配信など、投影内容のパターンを変えて反応を探る
「〇月〇日の〇時〇分、推定30代女性が、カジュアルコーディネートのマネキンを5秒見ていた」「〇品番のアウターは、茶色よりも黒色が注目された」といった店頭で起きている情報を、こうして全て可視化する。取得したデータを集約することで、成果が出やすいVMDを探る。
長年、アパレル業界では感性が重視され、販売員の主観でお客さまの好みを判断することが多かった。本社勤務スタッフやエリアマネージャーなど、店頭にいない人間も詳しい状況が見えないため、販売員の肌感覚を信じる部分も多かった。だが、計測データにより「勝ち筋パターン」が見えてくれば、より各店舗に合った最適な商品供給や見せ方を進めて売り上げアップにつなげることも可能となる。
視聴率は何秒が適切? 商品展開が多いアパレルならではの欠品課題も
コーディネートは毎週組み替えることでA/Bテストを行い、どういったものがお客さまの関心を引き付けるかを探る
今回の実証実験はあくまでも「VMD改善の可能性を探る」もの。実証実験開始時はどこまで正確にデータ計測ができるかも不透明だったが、予想以上に手応えを感じているとのことだ。
結果の分析はこれからだが、既に課題も見えてきた。アパレルは商品回転サイクルが早く、多品種少数生産のメーカーも多いため、売れ筋アイテムやサイズはすぐに欠品してしまうことも少なくない。せっかくある商品の反応が良いと分かっても、該当商品が欠品でディスプレーに結果を生かすことができないこともあるという。
実証実験前の2022年9月5日から10月4日まで同館内で行われた「ららぽーとクローゼット」でのプレ検証では、センサの異常によるデータ取得不具合も見られた。お客さまの反応として計測する「アテンション(視聴率)」は何秒以上で認知と捉えるのが適切かなど、実験をすることで見えてきた課題もある。
とはいえ、プレ検証では通行者数、店頭立ち寄り数、入店数、購買人数が判明したことで検証に十分な精度の興味喚起率や入店率等を取得することができた。マネキン着用コーディネートではそれまで好評だと思っていたカジュアルテイストよりもモード傾向が好まれていたことが判明するなど、新たな気付きを得ることにも成功しているのは事実だ。
「実証実験終了後は、まずはナノ・ユニバースの店長と話していき、店舗オペレーションにどのような応用が利きそうかを探りたい。こんなデータも見たい、スマホで確認できたら便利など、店長目線での必要な情報や機能を見つけ出せたら」と越智氏は今後の目標を語る。岩本氏も「当社商業施設が目指す成長は、当社だけでなく、お客さま、テナントに関わる皆さま、地域と一体となったものと考えている。今後もDXを活用したさらなる商業施設の魅力づくりに取り組んでいきたい」と展望を語った。






