デジタル技術活用で正確なデータを計測して「勝ち筋パターン」を探る
実証実験では、まず「ナノ・ユニバース」店頭にAIカメラ、赤外線センサ、デジタルサイネージを設置。今回は店舗売上げの元となる入店計測に的を絞り、店舗前の通行者数、店舗前のアテンション/認知者数、入店者数を計測する。
AIカメラではテナント通路前の通行者数と通行者の推定性別・年代、赤外線センサでは店内への入店客数、デジタルサイネージやマネキン前の滞在者数や滞在時間を計測する。
ディスプレーやマネキン、デジタルサイネージといったVMDを構成するコンテンツのパターンは、毎週内容を変更することでA/Bテストを行う。コンテンツ内容によるお客さまの行動や反応を観察して、「勝ち筋パターン」を探ることが狙いだ。
「〇月〇日の〇時〇分、推定30代女性が、カジュアルコーディネートのマネキンを5秒見ていた」「〇品番のアウターは、茶色よりも黒色が注目された」といった店頭で起きている情報を、こうして全て可視化する。取得したデータを集約することで、成果が出やすいVMDを探る。
長年、アパレル業界では感性が重視され、販売員の主観でお客さまの好みを判断することが多かった。本社勤務スタッフやエリアマネージャーなど、店頭にいない人間も詳しい状況が見えないため、販売員の肌感覚を信じる部分も多かった。だが、計測データにより「勝ち筋パターン」が見えてくれば、より各店舗に合った最適な商品供給や見せ方を進めて売り上げアップにつなげることも可能となる。
視聴率は何秒が適切? 商品展開が多いアパレルならではの欠品課題も
今回の実証実験はあくまでも「VMD改善の可能性を探る」もの。実証実験開始時はどこまで正確にデータ計測ができるかも不透明だったが、予想以上に手応えを感じているとのことだ。
結果の分析はこれからだが、既に課題も見えてきた。アパレルは商品回転サイクルが早く、多品種少数生産のメーカーも多いため、売れ筋アイテムやサイズはすぐに欠品してしまうことも少なくない。せっかくある商品の反応が良いと分かっても、該当商品が欠品でディスプレーに結果を生かすことができないこともあるという。
実証実験前の2022年9月5日から10月4日まで同館内で行われた「ららぽーとクローゼット」でのプレ検証では、センサの異常によるデータ取得不具合も見られた。お客さまの反応として計測する「アテンション(視聴率)」は何秒以上で認知と捉えるのが適切かなど、実験をすることで見えてきた課題もある。
とはいえ、プレ検証では通行者数、店頭立ち寄り数、入店数、購買人数が判明したことで検証に十分な精度の興味喚起率や入店率等を取得することができた。マネキン着用コーディネートではそれまで好評だと思っていたカジュアルテイストよりもモード傾向が好まれていたことが判明するなど、新たな気付きを得ることにも成功しているのは事実だ。
「実証実験終了後は、まずはナノ・ユニバースの店長と話していき、店舗オペレーションにどのような応用が利きそうかを探りたい。こんなデータも見たい、スマホで確認できたら便利など、店長目線での必要な情報や機能を見つけ出せたら」と越智氏は今後の目標を語る。岩本氏も「当社商業施設が目指す成長は、当社だけでなく、お客さま、テナントに関わる皆さま、地域と一体となったものと考えている。今後もDXを活用したさらなる商業施設の魅力づくりに取り組んでいきたい」と展望を語った。