「『仕事場とくらしと地球の明日にうれしい』を届ける。」をパーパスに掲げ、EC事業の先駆者として業界をけん引してきたアスクル。創業以来、全ての仕事場と暮らしを支えるインフラ企業となるべくDXへの取り組みも積極的に行い、AI・ロボットを活用したバリューチェーンの強化なども高く評価されている。現在、アスクルのDXをけん引しているのが、CDXO テクノロジー本部長の池田和幸氏だ。大手SIer、製造小売業などでSEを務め、アスクルではシンクロシステムやSAP導入、物流の構造改革を担当。豊富な経験に基づく知識の形式知化を武器とし、変革に挑む池田氏にこれまでの取り組みや成果などを聞いた。(インタビュー・構成/林桃)

社会環境の変化に伴い、事業の内容と仕組みを変える必要がある

――アスクルがDXに取り組むようになったきっかけを教えてください。

池田和幸氏(以下敬称略) 弊社はBtoBのカタログ通販からスタートし、ECサービスも非常に早いタイミングから進めてきました。ECサービスは、システムの塊のようなところがありますし、データが生成されてたまってきますので、そのデータを分析してさらにシステムをアップデートするということに関しては、90年代後半からずっと取り組んできました。

 ただ、ここ数年で社会環境が大きく変化しており、それに伴い、事業の内容と仕組みを変える必要が出てきました。EC事業は、業界全体としては成長しているのですが、物流業務などでの人手不足が問題となっています。ほかにも、テクノロジーの進化や新たな感染症の問題、気候変動やサステナブル経営に関する要求、新しい働き方に対する要望など、さまざまな社会的要請もあります。そうした課題を踏まえ、当社は2025年までにオフィス通販からのトランスフォーメーションを成し遂げるための中期事業計画を策定し、全社的なデジタルトランスフォーメーションの母体となる事業構造改革を進めています。

池田 和幸/アスクル CDXO テクノロジー本部長大手IT事業会社および複数の大手流通小売業をへて現在に至る。大手IT事業会社では、主に小売業向けのシステムの設計~開発に従事。大手流通小売業では、グローバルサプライチェーンやECシステムの発案・構築・運用に従事。アスクルでは、IT部門での基幹システムの構築や、物流部門では物流ロボット導入プロジェクトなどIT~ロジスティクスまだ幅広い分野で多数のプロジェクトに取り組む。2022年3月より現職。

 では、なぜDXによるイノベーションが必要なのか。当社の捉え方としては、2つあります。1つはテクノロジーの進展により、いろいろな企業がデジタル技術を活用した業務改善やサービス開発を気軽に始められるようになったこと。もう1つは、ビジネス環境の変化です。昨今の感染症の問題などもあって、お客さまや働き手の価値観が変化し、これまでの常識が通用しなくなりつつあります。テクノロジーの進展とあわせてディスラプターも出てきています。そういったものに対応していくためには、会社としてのトランスフォーメーションとあわせて、DXによるイノベーションが必要になると考えています。

 当社が注目するテクノロジーはたくさんありますが、テクノロジーの進展とビジネス環境の変化をキーワードにすると、5G通信、AI、クラウドの進展の3つが挙げられます。ロジスティクスの面では、まだ実証実験の範囲を出ていませんが、世間ではドローン配送や自動運転が現実味を帯びてきました。IoTによる自動発注も、スマートマットを使うことで、一部可能となる仕組みを提供できるようになっています。

 AIに関しては、当社も物量の予測、物流計画、在庫配置の最適化、レコメンデーションにおいて活用しています。また、テクノロジー的にはクラウドの進展は非常に大きな影響を及ぼすだろうと考えています。アスクルの強みは、これまで構築してきたシステム機能の優位性というところですが、同じような仕組みがクラウドサービスで簡単に提供され、それをリーズナブルに利用できる環境ができてくると、その優位性が喪失してしまうという課題もあります。こうしたことから、テクノロジーの進展とビジネス環境の変化の両方を見据えて、さまざまな施策を行っています。

――それには、どのようなものがありますか?

池田 BtoBのサイトに関しては、新しいユーザビリティを提供するECサイトの開発を進めています。また、医療・介護、製造業を中心に専門的な商品の取り扱いを増やす取り組みを進めています。アスクルは、ヘッド商品を当日・翌日にお届けするという点が強みですが、ロングテールの商品も増やしながら、できるだけ早くお届けできる体制を整えるチャレンジを始めたところです。

 まず、より多くの商材を在庫するための後方支援センターを準備し、在庫管理システム機能を拡張させることで、当日出荷可能商品数の拡大と出荷量の最大化の両立を目指しています。また、人手作業の多い物流センターには、実行型AIロボット導入など省人化のためのDXを進めています。