ビズフォワード 取締役副社長兼事業戦略本部長の林博之氏

 三菱UFJ銀行は2021年8月、マネーフォワードと合弁会社 Biz Forward(ビズフォワード)を設立した。出資比率は、マネ―フォワード51%、三菱UFJ銀行39%、三菱UFJファクター10%。メガバンクが中小企業向けサービスに着目し、支援の手段として DX 活用にたどり着いた理由は何か。三菱UFJ銀行側で合弁設立を準備した、ビズフォワードの林博之・取締役副社長兼事業戦略本部長に話を聞いた。(インタビュー・構成/呉乃梨子)

デジタル化が中小企業向け事業を可能にする

――ビズフォワード設立までの経緯を教えてください。

 私はもともと、三菱UFJ銀行で新規事業の推進事業に就いていました。当時大きな課題の1つとして捉えていたのが、中小企業の資金需要に対して十分な対応ができていないということでした。

 日本の国内企業のうち 99.7%は中小企業です。しかし、銀行の顧客はどうしても融資ができる中堅・大企業や業歴の長い企業が中心になっているのが実情です。融資に係る審査は決算書やこれまでの取引実績などの過去の数値がをもとに行われるのが中心だったのですが、デジタルを使えば過去の数値には現れない企業の今の価値を見いだす多彩なデータを集めることができるんです。今の時代は、これまでと違う面から企業の価値を見ることが可能になっていることに気が付きました。

 そこで、中小企業向けの資金調達需要に応えるサービスが、今だったら実現できるのではないかと考えました。そして、そのときに出会ったのが、中堅・中小企業を中心にバックオフィス事業に関連するSaaS事業を手掛けるマネ―フォワードでした。

林 博之/Biz Forward 取締役副社長兼事業戦略本部長

2005年に早稲田大学理工学部卒業後、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。法人営業、市場営業、証券、海外にて金融業務を幅広く経験した後、銀行の新規事業の推進業務に従事。2021年8月に株式会社Biz Forwardの取締役副社長に就任。
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■好きな言葉:「焦らず、驕らず、怠らず」

 中小企業に対してよりよい金融サービスを提供していきたいとの思いが、双方で一致していました。マネーフォワードは既に約20 万社に上る企業に向けて経理財務、その他の金融サービスを提供してきた実績がありました。一方で、銀行内でサービスをいちから構築するのも時間がかかる。むしろ銀行でできなかった部分に挑戦したいとの考えもあり、別会社を設立することになりました。

――デジタル化を進めることで、中小企業の資金調達は容易になるのでしょうか。

 ビズフォワードの中核2事業のうち、1つはオンラインで売掛債権を現金化するファクタリングサービス「SHKIN+(資金プラス)」という資金調達に関するサービスです。企業が発行した入金前の売掛債権(請求書)を当社が買い取り、売掛金の回収予定日よりも前に、申し込みから最短2営業日で利用企業にお振り込みが可能です。

 日本の商習慣では代金回収までの期間が長く、最短でも1カ月程度かかります。また、銀行からの急な融資が難しい場面や、事業を順調に展開しているのにもかかわらず短期的な資金ニーズや資金繰りが行き詰まる場面が出てくることもあります。ファクタリングというサービスはこのような融資では賄いきれない資金需要に対応するサービスです。

 われわれの提供する「SHIKIN+」は2者間のオンライン型ファクタリングのサービスになります。オンライン上での手続きに加え、当社のサービスでは、インターネットバンキングを利用している方だと大量に必要な入出金明細を簡単に連携もでき、審査申し込み手続きがさらに容易になりました。従来ならば決算書や売掛債権だけでなく、最大6カ月分の入出金明細の提出が必要で、通帳をたくさんコピーしたりと面倒な業務もありました。デジタルの活用により、利用企業の方も審査書類の準備が楽になり、審査する私たちもデータを漏れなく収集することができるようになり、中小企業の方によりスムーズに資金調達を提供しやすくなりました。今後、さらにお客さまに使いやすい形でサービスをアップデートしていきます。

――もう一つ、中核事業として請求代行サービスの「SEIKYU+(請求プラス」も手掛けています。

 こちらは掛け売りに必要な与信審査、請求書の発行発送、入金管理、未入金フォローなど請求に関わる全てのプロセスを代行するサービスです。中小企業は人手が足りず、請求業務に人員が割けないことも珍しくありません。また、会計に明るい人員を備えているとも限りません。その点、デジタルを活用するとポチポチと操作をしていくだけで請求書関連の業務が完了するので、手間の削減と業務の簡便化に大きな効果があります。

 日本企業の IT リテラシーはあまり高まっておらず、特に中小企業の日常業務にはまだまだ紙とはんこの商習慣が残ります。請求業務のデジタル化を進めることは、日常業務の効率化と電子化を共に進めることにもつながります。加えて、「SEIKYU+」はビズフォワードが入金保証を行うことにより、企業の売掛金が回収できないのではないかとの不安からも解放し、ファイナンス面でのサポートも行います。

 中小事業の資金面をサポートするファクタリングサービスと、DX推進をサポートする請求代行サービスを提供し、包括的なサービスを提示することで、中小企業の方が、「ビズフォワードに行けば相談に乗ってもらえる」と感じる存在を目指したいと思っています。