企業を取り巻く環境が激しく変わる現代において、経営者は「社会課題への対応」や「新規事業の創造」など、前例がないようなさまざまな課題に向き合っていくことが求められる。そのような「変化の時代」にあって、意思決定のよりどころとすべき本質とは何だろうか。本連載では『成果をあげる経営陣は「ここ」がぶれない 今こそ必要なドラッカーの教え』(國貞克則著/朝日新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「マネジメントの父」と呼ばれる経営学の大家・ドラッカーの教えを元に、刻々と変わり続ける時代において、会社役員がなすべき役割や、考え方の軸について論じる。
第5回は、自動車業界のスバルとマツダ、ビール業界のアサヒ、キリンのPLとBSを例に、経営陣の意思決定が企業の未来をいかに決定づけるかを考える。
今日の会社役員の意思決定が明日の会社をつくる
図表3-4は自動車会社の株式会社SUBARU(かつての富士重工業、以下「スバル」) とマツダ株式会社(以下「マツダ」) の2008年3月期のPLとBSを、各部分の金額の大きさが図の大きさでわかるように作図したものです。
売上高で比較すると、当時のスバルの売上高はマツダの半分以下でした。
それが2024年3月期には図表3-5のようになっています。売上高はほぼ同じになり、BSの総資本はスバルの方が大きくなっています。本業の営業活動による利益を表している営業利益率はスバルの方がはるかによくなっています。
これは何が起こったのでしょうか。ドラッカーは「業績のカギは集中である*70」と言います。スバルはある時期から北米市場に集中しました。私も車が嫌いなわけではなく、「いつかはレガシー」などと思っていたこともありましたが、スバルのレガシーという車は何代か前から北米市場向けの図体の大きい車になってしまい、日本人には魅力の薄い車になりました。また、スバルは個性的な軽自動車を作っていましたが、その生産もやめてしまいました。しかし、北米市場に集中したことにより、売上と利益を極端に伸ばしたのです。
そこには間違いなく、経営陣の経営判断がありました。経営陣の経営判断が会社の未来の姿を変えていったのです。
*70『[新訳]創造する経営者』P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、(ダイヤモンド社)の第1章