企業を取り巻く環境が激しく変わる現代において、経営者は「社会課題への対応」や「新規事業の創造」など、前例がないようなさまざまな課題に向き合っていくことが求められる。そのような「変化の時代」にあって、意思決定のよりどころとすべき本質とは何だろうか。本連載では『成果をあげる経営陣は「ここ」がぶれない 今こそ必要なドラッカーの教え』(國貞克則著/朝日新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。「マネジメントの父」と呼ばれる経営学の大家・ドラッカーの教えを元に、刻々と変わり続ける時代において、会社役員がなすべき役割や、考え方の軸について論じる。
第2回は、財務諸表を構成するBS、PL、CSの「本質的な役割」について説明する。
財務会計の全体像
ここで、ドラッカーの次の2つの言葉を紹介します。
1.「企業にとって第一の責任は、存続することである」
2.「社会と経済にとって必要不可欠なものとしての利益については、弁解など無用である。企業人が罪を感じ、弁解の必要を感じるべきは、経済活動や社会活動の遂行に必要な利益を生むことができないことについてである」
ここでもう一つ、「企業の第一の責任」に関するドラッカーの言葉を紹介しておきたいと思います。
「経済的な業績こそ、企業の『第一』の責任である。少なくとも資本のコストに見合うだけの利益をあげられない企業は、社会的に無責任である。社会の資源を浪費しているにすぎない69」(太字著者)
この文章の中の「資本のコストに見合うだけの利益」という言葉を聞いて、読者のみなさんは何を意味しているかピンときますか。資本のコストに見合うだけの利益をあげられていない経営陣は、「社会の資源を浪費しているにすぎない」とまで言われています。
会計がわかっていなくても経営はできます。しかし、プロの経営者として、責任を持って経営という仕事をしようと思えば、会計がわかっていないと話になりません。
私はこれまで約20年にわたって、日経ビジネススクールなどで財務会計の講師をしてきました。これから少し財務会計の話をして、その中で「資本のコストに見合うだけの利益」ということについて説明すると同時に、財務会計を使いながら、会社役員にとってのもう一つの重要な役割という話につなげていきたいと思います。
本書のベースになっている考え方は「大局観と本質論」です。ドラッカーの「大局観と本質論」とは比べものになりませんが、私も「全体像とその本質」ということをいつも大切にしてきました。私が書いた『財務3表一体理解法』がベストセラーになったのも、財務会計の「全体像とその本質」を示したからだと思っています。
会社役員が簿記や仕訳の細かいところまで理解しておく必要はないと思います。しかし、財務会計の「全体像と基本的な仕組み」は理解しておく必要があります。
69『ポスト資本主義社会』P・F・ドラッカー著、上田惇生+佐々木実智男+田代正美訳、(ダイヤモンド社)の5章