20代で京セラを創業、50代で第二電電企画(現KDDI)を設立して通信自由化へ挑戦し、80歳を目前に日本航空の再生に挑んだ稲盛和夫氏。いくつもの企業を劇的に成長・変革し続けてきたイメージのある稲盛氏だが、京セラで長らく稲盛氏のスタッフを務めた鹿児島大学稲盛アカデミー特任教授の粕谷昌志氏は、「大変革」を必要としないことこそが稲盛経営の真髄だという。本連載では粕谷氏が、京セラの転機となる数々のエピソードとともに稲盛流の「経営」と「変革」について解説する。
第4回は、稲盛和夫の自著の書名、「盛和塾」のモットーともなった「心を高める、経営を伸ばす」経営のルーツを、貴重な自筆資料とともにたどる。
経営における「心」の重要性
稲盛和夫の経営思想の最大特徴は、人の心を重視することにある。
元来、会社業績と経営者の心のありさまとの関連を真正面から論じる者は少なかったが、稲盛はその両者が不即不離の関係だと考えた。経営を伸ばすには、経営者が心を高めなければならないことを信じ、自ら実践した。また、「心を高める、経営を伸ばす」を最初の著書のタイトルとし、主宰した経営塾「盛和塾」のモットーにもしたように、広く社会に説いた。
京セラの成長発展期に、経営における精神の重要性に気付き、そのことをKDDIや日本航空でも貫き、業種業容を超えて経営する企業を繁栄へと導き続けたこと、それはまさに変革であろう。そんな稲盛経営の原点をひもといていきたい。