日本の大企業の間でオープンイノベーションの必要性が叫ばれるようになって久しい。だが、明確な戦略の欠如、社内の推進組織やスタートアップとの協業体制の不備といった要因により、なかなか成果を生み出せていないのが実情だ。そうした中、KDDIは2011年からいち早くオープンイノベーションに取り組み、国内外の150以上の企業に投資、20社以上と共同事業立ち上げといった効果を上げてきた。大企業はいかにスタートアップと手を組み新規事業開発に挑むべきか。KDDIで新規事業開発の責任者を務めるオープンイノベーション推進本部長 兼 ビジネス共創推進室長の中馬和彦氏に聞いた。
協業するスタートアップを見極める過程は結婚までの道のりに似ている
――KDDIがオープンイノベーションを積極的に進めている理由はどこにあるのでしょうか。
中馬和彦氏(以下敬称略) 創業事業である固定電話サービスの売上が急激に減少する中で、新規事業への取り組みが不可欠だった歴史から、常に変化を続ける必要性を認識しており、私たちに「新規事業をやってみたいけど難しいので断念する」という選択肢はありません。こういうコンセンサスのもとで経営レベルから動いているのは大きいと思います。
加えて、創業者の稲盛和夫氏が作ったアメーバ経営の考え方が浸透しているのも要因かもしれません。どんなに小さい組織でも一定の権限を与えて自律分散的に活動する、という土壌がもともとあります。だからこそ、積極的なチャレンジができるのかもしれません。
――スタートアップに投資して事業の芽を育てながら、成長してきた事業に集中するという方法を採用していますが、スタートアップとの協業の可能性はどのように見極めていますか。
中馬 スタートアップに投資して事業が成長していくと、その会社の経営会議に出席するようにもなりますが、そういった場に参加することで情報の濃度が上がっていきます。経営会議に加わることで、外からでは見えなかった業界構造が見えてきます。それにより、当社アセットと掛け合わせたアイデアが湧いてくるのです。ですからいかに幅広い業界のインサイダーになれるか、が重要だと思います。
そういう点を考えると、オープンイノベーションは「結婚」に近い概念かもしれません。結婚は、人と人がお付き合いを始めて、少しずつ関係を深めていき、何かきっかけがあって結婚に至る、ということが多いと思います。こうした流れが事業でも同じように見られます。相性が良さそうな会社に出資して関係を深めていき、最終的にM&Aをしてグループに加わってもらう、ということです。まずは組み合わせをつくり、うまくいきそうな事業は少しずつグループに入れて、より大きくしていくといった流れです。