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『論語』に学ぶ日本の経営者は少なくない。一方、これまで欧米では儒教の価値観が時代遅れとされ、資本主義やグローバル化には合わないと考えられてきた。だが最近になって、その評価が変わりつつある。本連載では、米国人ジャーナリストが多角的に「孔子像」に迫る『孔子復活 東アジアの経済成長と儒教』(マイケル・シューマン著/漆嶋稔訳/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。ビジネスの観点から、東アジアの経済成長と儒教の関係をひもとく。
今回は、2008年のリーマンショックを乗り切ったある韓国企業を例に、儒教文化が根付いた労使関係の「強さ」を検証する。
縁故資本主義への変質?

韓国大手企業の家族経営者は、他人である専門家よりも自分の息子を経営陣に入れようと特別扱いするのが当然とされる。求職者は職を得たければ、才能よりも人脈を頼りにする。
2013年に実施された中国の国営新聞社の世論調査では、まともな仕事を得るためには「実力者」に頼りたいと若年労働者の84%が答えたのに対し、成功への道として努力を重視する人はわずか10%に過ぎなかった34。
社内のヒエラルキーが厳しい企業では、若手社員が経営者に意見具申や異議を唱えることは至難の業だ。このような社風では最先端製品の生産や経営者の賢明な意思決定を支援する画期的な提案や開放的な情報交換は難しいから、批判の対象となる。
孔子は様々な問題の責任を取らされ、飛行機墜落事故が起きても孔子のせいだと非難された。もっとも、アジア内外の専門家は、韓国では航空機の操縦室内の上下関係が貧弱な安全記録の背景にあると見ていた。若手パイロットは機長を恐れるあまり、誤りの指摘や質問ができない。だが、それは安全飛行に必要なチームワークの極めて重要な側面なのだ。
実際、1997年にグアムで起きた大韓航空機墜落事故では、その問題の深刻さが顕著に現れ、死者228人の大惨事となった。大韓航空は外国人の教官と役員を雇い入れ、儒教文化を排除し、操縦室内の搭乗員に責任を共有させ、十分な意思疎通ができるように指導することが求められた35。
34 “Poll: ‘Young Chinese Use ‘Daddies’ to Get Ahead,” WSJ.com, August 20, 2013.
35 以下を参照。Bruce Stanley, “Korean Air Bucks Tradition to Fix Problems,” Wall Street Journal, January 9, 2006.