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『論語』に学ぶ日本の経営者は少なくない。一方、これまで欧米では儒教の価値観が時代遅れとされ、資本主義やグローバル化には合わないと考えられてきた。だが最近になって、その評価が変わりつつある。本連載では、米国人ジャーナリストが多角的に「孔子像」に迫る『孔子復活 東アジアの経済成長と儒教』(マイケル・シューマン著/漆嶋稔訳/日経BP)から、内容の一部を抜粋・再編集。ビジネスの観点から、東アジアの経済成長と儒教の関係をひもとく。

 今回は、中国企業レノボが「標準的MBA式」の経営から儒教的経営に切り替え、世界首位に躍り出た経緯をたどる。

多国籍企業レノボの儒教的経営戦略

孔子復活』(日経BP)

 柳傳志によると、中国的商慣行はユニロック社のような中小企業だけでなく、巨大多国籍企業にも存在し、それは柳個人の経験からも証明できるという。柳は中国のパソコンメーカーであるレノボ・グループの創業者だ。

 2005年、柳はIBMのパソコン事業買収を実現させ、中国企業の経営者の枠を超えた。この案件はレノボを真の意味で中国初の多国籍企業に変えた。レノボは世界中に広がる様々な人種、宗教、背景からなる従業員を擁する企業なのだ。

 当時、柳は61歳だったが、この新しく生まれ変わった企業を運営する最善の策は若手経営者に託すことだと考えた。さらに重要なのは、候補者を中国人に限らなかったことだ。

 というのも、レノボ社内のチームは国内でこそ大成功したが、文化的地理的に多岐にわたる企業を導くのに必要なグローバルな経験を持ち合わせていなかったからだ。そこで、柳はまずCEOの座をIBM社の役員に譲り、次にパソコン業界に精通したアメリカ人ウィリアム・アメリオに委ねた。

 だが4年後、世界不況の影響で業績不振に陥り、柳は非常勤から現場に引き戻される。レノボ会長に復帰した柳は、CEOを中国人に任せた。レノボの市場シェアと収益性が徐々に低下したことで、柳の復帰が求められた。彼は次のように語っている。