出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 2015年、航空機の整備部門にカイゼンを採り入れたANA。約10年の時が経ち、その活動はグループ23社、約3万1000人に広まっているという。どのような手順で巨大組織にカイゼンを浸透させたのか。2024年12月に書籍『ANAのカイゼン』(かんき出版)を出版したANAビジネスソリューションの川原洋一氏に、ANAが学び採り入れた他社の優れたカイゼン事例や、具体的なカイゼン活動の内容について聞いた。

「知識×体験=知恵」がカイゼンの方程式

――著書『ANAのカイゼン』では、2015年にANAがカイゼンを導入する前に、他社のカイゼンを徹底調査したと述べています。どのような考えの基で調査を進めたのでしょうか。

川原洋一氏(以下敬称略) 私たちは「知識×体験=知恵」をカイゼンの方程式として大切にしてきました。カイゼン力を育てるために、最初に着手したのは「知識」を深めることです。自分たちでカイゼンを進めるために5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)や3M(ムリ・ムラ・ムダ)といったカイゼンの基礎知識は必須だと考えたからです。

 しかし、知識だけでは実践には結びつきません。次に必要になるのは「体験」です。そこで、優れたカイゼンを実践する企業の事例を調べ、具体的にどのように進めればよいのかを学ぶべく、企業訪問を実施しました。訪問した企業は自動車メーカー、医療機器メーカー、交通インフラなど数十社に上りました。

――他社のカイゼンを見学した中で、特に印象に残った企業はありますか。

川原 JR東日本の東京総合車両センターが強く印象に残っています。

 電車の車両についているエアコンは、設置する際のボルトの本数がメーカーによって異なるそうです。同社ではエアコン点検の際、「ボルトの本数と同じ数の穴が開いたボード」を用意し、取り外したボルトをそこに差し込んで管理することでボルトの紛失を防いでいました。

 穴が全て埋まれば、全てのボルトを抜け漏れなく取り外せている、と一目で分かるようになっていたのです。ANAでも飛行機のエンジン点検の際、大量のボルトのつけ外しを行うため、JR東日本の見える化の仕組みを見て「これは素晴らしい」と感動し、応用させてもらうことにしました。