「日産リーフ」に続いて「サクラ」「アリア」と新たな電気自動車(EV)を投入した日産。その開発過程にあった多くの課題を克服する際に発揮された、日産ならではの強み、他社との「協業力」とは。今回は、サクラの開発を指揮したCVE(チーフビークルエンジニア)である坂幸真氏、2代目リーフ、アリアのCVEを担当した磯部博樹氏、そして初代リーフのCVE門田英稔氏の3人による座談会形式で、EV開発の裏側を語ってもらった。(第3回/全3回)
【第1回】日産リーフ開発責任者・門田英稔氏が夢見たのは「単なる移動手段を越えたモビリティー」だった
【第2回】「2代目リーフだけが初代リーフの後継ではない」日産・磯部博樹氏に聞く自動車の電動化と知能化
「EV=高額」の壁を乗り越えたゲームチェンジャー「サクラ」
──「サクラ」の開発は、どのように進められたのでしょうか。
坂 幸真氏(以下・敬称略) 日産がサクラの開発に着手した背景には、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す取り組みがありました。軽自動車は日本独自の規格ですが、シェアは大きく、ここをゼロエミッション化する意義は大きい、という社内方針が定まり、サクラの開発がスタートしました。
軽自動車のEV化は理にかなっています。軽自動車は近距離の移動が利用の中心ですから、大容量バッテリーを必要としません。つまり、普通自動車よりもバッテリーコストを下げることができます。
ただ、日産は軽EV開発の実績がありません。そこで軽EVの開発実績がある三菱自動車との協業が重要なポイントでした。
日産と三菱はそれぞれブランドを持っているため、日産は「サクラ」、三菱は「eKクロス EV」として、軽EVを完成させました。
──開発するに当たって、どのような点で苦労しましたか。
坂 サクラの開発において最大の課題はコストでした。軽自動車市場は非常に価格に敏感です。価格を低く抑えるためには投資の抑制や生産量を増やすことが重要ですが、軽EV市場は実績がないため販売量を正確に予測することは困難でした。
そこでリーフや他の電動車で開発した電気自動車用部品を多用し、開発費を徹底的に抑えました。サクラは、基本的には既存の技術や部品を組み合わせたものです。
──2022年の発売から売れ行きが好調ですが、発売前から手応えはあったのでしょうか。
坂 私は開発の後半からプロジェクトに参入しましたが、その時点で手応えを強く感じていました。もちろん、政府からの補助金がどれだけ交付されるかは不透明な部分はありましたが、この価格帯でこの性能を実現できれば、販売台数は伸びるだろうという期待感は社内でも高まっていました。実際、社内でも「販売したら購入したい」といった声が多く寄せられていましたから。
門田 英稔氏(以下・敬称略) 地方などでは、ガソリンスタンドが自宅から遠く離れているケースも少なくありません。ガソリンを給油するために何十キロも走らなければならないこともあるでしょう。そういったシーンで、自宅で充電できることは大きなメリットになると感じていました。
磯部博樹氏(以下・敬称略) 私はサクラが軽自動車市場におけるゲームチェンジャーになると確信していました。従来の軽自動車は、どうしてもエンジンの出力が限られているため、パワー不足を感じることがあります。しかし、軽自動車でもEVならば、スムーズで力強い、従来の軽自動車にはない体験を提供できます。