JSR前会長、経済同友会経済安全保障委員会委員長、ラピダス社外取締役 小柴満信氏(撮影:内藤洋司)JSR前会長、経済同友会経済安全保障委員会委員長、ラピダス社外取締役 小柴満信氏(撮影:内藤洋司)

 政府による補助金投入を受け、熊本に台湾TSMCの新工場が建設された。また、新会社ラピダス(Rapidus)が政府の全面支援のもとに設立されるなど、日本の半導体産業復活に向けた動きが活発化している。半導体の重要性が世界でかつてないほど高まっている理由とは。日本の半導体産業はどうすれば復活できるのか。2024年7月、書籍『2040年 半導体の未来』(東洋経済新報社)を出版した政府の経済安全保障関連の審議会委員であるとともにラピダス社外取締役でもある小柴満信氏に話を聞いた。(前編/全2回)

■【前編】日本半導体に「千載一遇のチャンス」到来、ラピダスを批判する人が知っておくべき「技術の転換点」とは?(今回)
■【後編】理研の量子コンピュータ「叡」の革新が「日本半導体の未来」を照らす納得の理由

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半導体は「付加価値を持った製品」に変わった

──著書『2040年 半導体の未来』では、日本経済復活の鍵が「先端半導体」にあるとして、先端半導体を国産化することの重要性について解説しています。小柴さんは半導体材料メーカーであるJSRで40年以上にわたり半導体業界の変遷を見続けてきたわけですが、なぜ、世界で半導体の重要性が高まり続けているのでしょうか。

小柴 満信/JSR前会長、経済同友会 経済安全保障委員会 委員長、ラピダス社外取締役

1981年、日本合成ゴム(現JSR)入社。1990年、半導体材料事業拠点設立のため米シリコンバレーに赴任。モトローラ、IBM、インテル等との関係を構築。2009年社長。2019年会長。2021年から2023年まで名誉会長。2019年から2023年まで経済同友会副代表幹事として国際関係・先端技術・経済安全保障を担当。2020年にCdots(シンクタンク)を設立し、先端技術、地政学、地経学に関する意見発信を行う。国内外のスタートアップ(Quantinuum、Fortaegis、Spiber、TBMなど)を支援中。2023年6月、ラピダス社外取締役に就任。

小柴満信氏(以下敬称略) 半導体はかつてデータ保存を担う「数ある電子部品の1つ」という位置づけでした。しかし、半導体の用途が広がるにつれ、メモリ半導体から、CPU・GPUといったロジック半導体へと役割が移行していきます。これは、比較的単純な構造の部品から、高度な論理演算や制御を行う「付加価値を持った部品」への変化を意味します。

 初期の半導体は、ラジオや電卓に搭載されることが主でしたが、その後、パソコンに搭載されるようになり、1990年代に入ると携帯電話に、2000年代に入るとスマートフォンにも搭載されるようになります。

 そうした中で、大きな変化となったのが2012年です。コンピュータによる画像認識の精度を競う国際コンテストにおいて、ディープラーニング(深層学習)AIを使ったトロント大学のチームが「認識率の誤りが17%」と他に約10ポイントもの差をつけて優勝しました。この年以降、半導体の進化はAIの計算能力を激烈に押し上げていきます。

 また、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻は、「兵器の性能向上」という半導体の新たな側面をクローズアップしました。半導体が安全保障分野と切っても切り離せないことが改めて明らかになったのです。

 半導体はいつでもどこでも手に入るものではなく、製造も容易ではありません。いま最先端の半導体工場を作ろうとすると、一つの工場あたり2兆円以上の建設費がかかると言われています。回路線幅16ナノメートル以降の先端半導体となると、製造できるメーカーは世界に6社しかありません。

 それにもかかわらず、高性能のスマホやAIのように高度な計算能力を求められる先端半導体は、すでに私たちの仕事や生活に欠かせないものとなっています。20世紀の資源が「化石燃料」や「鉱物」だとすれば、21世紀の重要資源は「計算資源」です。そのように考えると、計算資源の「原材料」とも言える半導体がどれだけ重要か、お分かりになっていただけるのではないでしょうか。