レゾナック 計算情報科学研究センター センター長の奥野好成氏(撮影:酒井俊春)

 機能性化学メーカーのレゾナックは、材料開発を担う技術者がデータ科学の知識も身に付ける「二刀流人材」の育成を進めてきた。これにより、材料開発のスピードが上がり、工数削減の効果を生んでいるという。その取り組みにおいて大きな役割を担っているのが、同社の計算情報科学研究センターだ。センター長を務める奥野好成氏に、独自の人材育成方法の詳細を聞いた。

特集・シリーズ
シリーズ DX人材 ~人材こそがDX推進の鍵

今企業には、デジタル技術を武器に業務を見直し、事業を創り、そして企業を変革していく者、すなわち「DX人材」が必要だ。本特集では、DX人材の育成にチャレンジングに取り組む企業を取材し、各社の育成におけるコンセプトやメソッドを学んでいく。

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技術者がデータ科学を身に付ければ、大きなメリットに

――材料開発の技術者について「二刀流人材」の育成を進めているとのことですが、具体的に何をしてきたのでしょうか。

奥野好成/レゾナック 計算情報科学研究センター センター長

慶應義塾大学修士卒、京都大学工学博士(論文提出)。2011年昭和電工株式会社に入社、研究開発本部研究開発センター計算科学グループのリーダーを担った後、理事 融合製品開発研究所計算科学・情報センター長となる。2023年昭和電工と日立化成が統合され株式会社レゾナックになると同時に、株式会社レゾナック 理事 計算情報科学研究センター長を経て、フェロー 計算情報科学研究センター長、現在に至る。

奥野好成氏(以下敬称略) 技術者に対して統計解析ソフトウェア「JMP(ジャンプ)」を提供し、使い方や活用方法を伝えながら、技術者自らがデータ科学を実践できる体制を作ってきました。

 もともと材料開発の世界では、開発の技術者とデータ科学の専門家が連携して開発を行っています。レゾナックの場合、われわれ計算情報科学研究センターがデータ科学の専門家として、各領域の開発技術者と密にコンタクトを取りながら進めています。

 すでに開発現場とデータ科学を組み合わせる体制はできていましたが、われわれはあくまでデータ科学やITの専門家であり、材料に関する知識は技術者に及びません。そのため、データ解析やシミュレーションで出した結果が、開発の実態や現実に即していないケースもありました。これらによる手戻りは一定程度起きてしまいます。

 その中で、もし技術者自身が一定のデータ科学を身に付ければ、全ての解析をわれわれのセンターで行わず、一部は技術者自身が行い、その結果を基に次の実験を行うサイクルを回せます。これにより、成果を出すまでのスピードアップや工数削減ができると考えました。

提供:レゾナック
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 そもそも材料開発は、ビッグデータが存在しにくい領域です。そのため、熟練技術者のノウハウとデータ科学では、ほとんどの場合で前者が上を行くと私は考えています。なぜビッグデータが存在しにくいかと言えば、開発の成功データは詳細に記録されるものの、失敗などのネガティブデータは全て記録されているわけではありません。技術者の頭の中に蓄積されてきたケースが多分にあります。これは製造業全体に共通することでしょう。

 すると、データ科学による解析は必要ですが、あくまで熟練の技術者の頭の中にある経験や知識が軸になります。であれば、技術者自身がデータ科学を身に付けることで、より開発の精度を高められると感じました。一方、データ科学の専門家には、技術者のできない高度な解析を行いつつ、併せて技術者にデータ科学を教えたり、活用の支援を行ってもらおうと考えたのです。