機能性化学メーカーのレゾナックは、材料開発を担う技術者がデータ科学の知識も身に付ける「二刀流人材」の育成を進めてきた。これにより、材料開発のスピードが上がり、工数削減の効果を生んでいるという。その取り組みにおいて大きな役割を担っているのが、同社の計算情報科学研究センターだ。センター長を務める奥野好成氏に、独自の人材育成方法の詳細を聞いた。
今企業には、デジタル技術を武器に業務を見直し、事業を創り、そして企業を変革していく者、すなわち「DX人材」が必要だ。本特集では、DX人材の育成にチャレンジングに取り組む企業を取材し、各社の育成におけるコンセプトやメソッドを学んでいく。
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技術者がデータ科学を身に付ければ、大きなメリットに
――材料開発の技術者について「二刀流人材」の育成を進めているとのことですが、具体的に何をしてきたのでしょうか。
奥野好成氏(以下敬称略) 技術者に対して統計解析ソフトウェア「JMP(ジャンプ)」を提供し、使い方や活用方法を伝えながら、技術者自らがデータ科学を実践できる体制を作ってきました。
もともと材料開発の世界では、開発の技術者とデータ科学の専門家が連携して開発を行っています。レゾナックの場合、われわれ計算情報科学研究センターがデータ科学の専門家として、各領域の開発技術者と密にコンタクトを取りながら進めています。
すでに開発現場とデータ科学を組み合わせる体制はできていましたが、われわれはあくまでデータ科学やITの専門家であり、材料に関する知識は技術者に及びません。そのため、データ解析やシミュレーションで出した結果が、開発の実態や現実に即していないケースもありました。これらによる手戻りは一定程度起きてしまいます。
その中で、もし技術者自身が一定のデータ科学を身に付ければ、全ての解析をわれわれのセンターで行わず、一部は技術者自身が行い、その結果を基に次の実験を行うサイクルを回せます。これにより、成果を出すまでのスピードアップや工数削減ができると考えました。
そもそも材料開発は、ビッグデータが存在しにくい領域です。そのため、熟練技術者のノウハウとデータ科学では、ほとんどの場合で前者が上を行くと私は考えています。なぜビッグデータが存在しにくいかと言えば、開発の成功データは詳細に記録されるものの、失敗などのネガティブデータは全て記録されているわけではありません。技術者の頭の中に蓄積されてきたケースが多分にあります。これは製造業全体に共通することでしょう。
すると、データ科学による解析は必要ですが、あくまで熟練の技術者の頭の中にある経験や知識が軸になります。であれば、技術者自身がデータ科学を身に付けることで、より開発の精度を高められると感じました。一方、データ科学の専門家には、技術者のできない高度な解析を行いつつ、併せて技術者にデータ科学を教えたり、活用の支援を行ってもらおうと考えたのです。