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 なぜ日本のメーカーはイノベーションが苦手なのか? マネジメント、ビジネスモデル、組織構造、企業文化、人材教育などをどう変えれば克服できるのか? 三菱自動車で世界初の量産型電気自動車「i-MiEV」(アイ・ミーブ)の開発責任者などを歴任したe-mobilityコンサルタント・和田憲一郎氏が、世界で進むEVシフトや時代の変化に適応するためのマネジメント法など、「新時代のモビリティ」について複眼思考で解説する。 

 第3回は、電気自動車(EV)のエネルギー消費効率を大きく左右し、テスラが革新的なシステムを搭載して注目を集める「冷暖房システム」(サーマルマネジメントシステム)について考える。

ガソリン車の冷暖房システムの立ち位置

 あまり知られていないが、電気自動車(以下EV)の冷暖房システム、つまりサーマルマネジメントに関する優先順位が車両開発の中で大きく変わってきているのではないかと思える。それは、冷暖房システムの良し悪しが車両の優劣に直結するためであり、ガソリン車の冷暖房システムとは、開発の視点を変える必要があるからではないだろうか。

 では、どのような背景からEVの冷暖房に関するサーマルマネジメントが変わってきたのか、はたまた日系自動車メーカーはこのような動きにどう対応すべきかについて、筆者なりの考えを述べてみたい。

 筆者は、三菱自動車でEV開発を担当する前は、内装、特にインパネ周りの開発が長かった。その時、途中からシートや空調も見ることがあったので、冷暖房システムについても少し土地勘はある。振り返ると、自動車メーカーの空調システム部門は、ある意味、車両開発に対して独立した存在であったように思える。

 というのは、エクステリアやインパネなどはデザイン性に左右され、そのクルマ独自のものが創り出される。それに対して、空調システム部門は、車両のサイズが確定した段階で、空調の開発目標値が大きく変わらない限り、ほぼ同様の部品を採用することが可能であった。

 例えば、コンプレッサーなどは第〇世代といい、各種改良を重ね進化していくことが重要であり、その世代が更新されると、次世代用として空調の開発目標値がほぼ同一であれば継続使用となる。

 このように、デザイン性に依存せず、空調性能を徹底的に追求することが重要であり、HVAC(Heating:暖房、Ventilation:換気、Air Conditioning:空調)などの基本構造を堅持し、室外熱交換器、エバポレータ、アウトレットなどの部品を若干変更することで開発していくのが、自動車の空調システム開発の特徴と言えた。