EVの冷暖房システムに変化
ところが、EVの時代になると、冷暖房システムに対し、要求レベルが変わってきたと思える。EVの場合、WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)サイクル試験法に基づき一充電走行距離の比較をすることが多い。
しかし、この試験法は外気温の変化や冷暖房なしの条件である。実使用時は、バッテリーしかエネルギー源がないことから、走行や、バッテリー、モーターなどパワートレインの冷却、ウィンドシールドからの放熱、冷暖房などにエネルギーを費やしてしまう。このため、いかに効率よく熱のエネルギー管理を行うかが大切になってくる。これがEVのサーマルマネジメントである。
そのサーマルマネジメントの中でも、最も消費量が大きいのが暖房機能であった。ガソリン車の場合、暖房はエンジンの排熱を利用しており、暖房必要熱量に対して十分な熱量があるため、若干の燃料消費量増加はあるものの、影響は軽微であった。
それに対して、EVの暖房方法と言えば、黎明期は空調が温風を出せるようになるまで電気でヒーターを温めるPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度係数)ヒーター方式が有効であった。なぜなら、極低温時に暖房性能や防曇機能を確保しようとすると、短時間で暖房可能な方式としてPTCヒーター方式が最も適していたからである。
しかし、PTCヒーターは多くのエネルギーを消費するという欠点がある。その結果、-20℃などの極低温時は、走行距離が一気に減ってしまう。筆者の経験でも、走行中にバッテリー容量の半分程度を使ってしまい、走行距離が大幅に減少した経験がある。
その後はヒートポンプ方式も生まれた。原理的にエネルギー消費効率(COP)が1を超える方式はヒートポンプ方式のみである。暖房の熱源として大気の熱を利用するため、PTCヒーター方式と比較すると、少ないエネルギーで暖房ができる特徴がある。
しかし、ヒートポンプは極低温時の暖房性能が劣ることから、ヒートポンプと小型のPTCヒーターを併用する方式も生まれた。近年は、ヒートポンプ方式に対して、電動コンプレッサーで一度圧縮した冷媒の一部を再度電動コンプレッサーに戻して圧縮するガスインジェクションヒートポンプ方式も誕生している。