(写真左)花王 執行役員 会計財務部門統括の牧野秀生氏(写真右)花王 上席執行役員 人財戦略部門統括の間宮秀樹氏(2025年8月取材当時)(撮影:榊水麗)

 自社の経営を測る主な指標として「EVA(経済的付加価値)」と「ROIC(投下資本利益率)」を採用している花王。2つの指標に対する社員の意識を醸成するため、現在、人事制度を絡めた施策を進めている。その施策立案に携わったのが、花王 上席執行役員 人財戦略部門統括の間宮秀樹氏(2025年8月取材当時)と、同執行役員 会計財務部門統括の牧野秀生氏だ。経済産業省による「グローバル競争力強化に向けたCX研究会()」の座長を務めた日置圭介氏、同会の発起人である経済産業省の片山弘士氏とともに、その内容を聞いた。

※CX=コーポレートトランスフォーメーション:企業変革

コロナ禍による業績の停滞もあり、改革を決断

――花王では、EVA(※1)とROIC(※2)を「経営の主要な指標」として採用しています。どのような狙いでこの2つが選ばれたのでしょうか。

牧野秀生氏(以下敬称略) 当社ではまず、1999年にEVAを主要な経営指標として採用しました。EVAは、資本コストを上回る「真の経済的利益」をどれだけ生み出したかを測る指標ともいえます。これにより、各事業部で在庫をなるべく少なくするなど、利益を最大化するマインドが醸成されてきたと考えています。

※1:利益から資本コストを差し引いた経済価値を示す指標
※2:資本コストに対してどれだけ効率的に稼いでいるかを見る指標

 しかし、その後当社の商品群が増えていく中で、各事業が資本コストや効率的な利益の追求をより強く意識する必要性が高まりました。特にコロナ禍では、業績面でも厳しい局面を迎え、さらに現中計「K27」達成に向けた資本効率改革の一環として、こうした意識を高めることが重要だと考えたのです。そこで2023年8月から、もう1つの経営指標としてROICを採用しました。EVAとROICは、「資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているか」を表す点で共通しており、私たちの課題解決につながると考えました。

 全社の経営を測るのはもちろん、事業別のROICも測定することにしました。というのも、EVAは最終的な利益を「金額」で示すのに対し、ROICは「%」で示します。そのため、売上規模の異なる各事業について、ROICなら競合との比較が容易になります。それを基に、各事業の状況分析や戦略策定を高度化しようと考えたのです。実際に、比較が可能になったことで、全部門が利益最大化や資本効率の向上など、同じ方向を目指せるようになりました。

 また、事業別ROICを算出したことで、効率的な利益追求のために何をすべきか、各部門の中で議論できるようになりました。設備投資や在庫の持ち方について、部門内で話し合って改善する形が増えています。

 その他の効果として、販売部門においては、売上やシェアの拡大のみを追いかけるのではなく、「限界利益(※3)」の向上を重視するようになりました。

※3:商品やサービスを販売した際に直接得られる利益のこと。