アレグロマイクロシステムズ 取締役会会長の鈴木善博氏と一般社団法人日本CFO協会/日本CHRO協会シニアエグゼクティブの日置圭介氏(撮影:榊水麗)

 真の意味で、取締役会が「経営に貢献する」ためには何が必要なのか──。ナスダック上場企業の米アレグロマイクロシステムズは、2020年以降、社長を2度交代させており、いずれも取締役会の主導で実施したという。その同社にて、長らく取締役会会長を務めてきたのが鈴木善博氏(2025年8月から取締役および名誉取締役会会長)だ。世界で勝つためのコーポレート・トランスフォーメーション特集の特別編となる今回、経済産業省による「グローバル競争力強化に向けたCX研究会(※)」の座長を務めた日置圭介氏とともに、鈴木氏の言葉から取締役会の在り方を考える。

※CX=コーポレートトランスフォーメーション:企業変革

取締役会の主導による、2度の社長交代

──鈴木さんは、2017年から2025年8月まで、米アレグロマイクロシステムズ(以下、アレグロ)の取締役会会長を務めてきました。その運営に際し、どのようなことを意識していましたか。

鈴木善博氏(以下敬称略) 取締役会と執行側(※)を完全に分離させ、真の意味で、私たちが「執行側を監督する組織」になることです。例えば、社長が期待通りの成果を出せないとみたら、取締役会がちゅうちょなく交代させなければなりません。それが私たちの責務であり、仮に社長交代を実行できないのなら、取締役会の監督責任を果たせていないと言えます。

※企業において業務執行を担う人員

 アレグロでも、取締役会の判断で、2020年以降に2度の社長交代を行っています。それも、社長交代を検討していることについて、執行側には事前に知らせずに実施しました。

 アレグロは、1990年に日本のサンケン電気が買収し、親会社と子会社の関係になりました。私は当時、サンケン電気に在籍していたことからアレグロの経営に携わるようになったのですが、2013年~2017年には社長を務め、その後、2017年から取締役会会長になりました。

 アレグロは2000年以降に着実な成長を実現し、主力製品である磁気センサーは世界トップのシェアを獲得するまでになりました。買収直後は赤字だった経営も、現在は営業利益率12~15%台となっています。2020年にはナスダック上場も果たしました。

 社長交代を行ったのは、上場から2年後の2022年です。IPOを実現したことは素晴らしい成果でしたが、当時の社長はそれ自体を大きな目標にしていたので、次のフェーズへ進むにはトップを変える必要があると判断しました。そこで、取締役会が後継者を選任しました。

 退任してもらうことを社長本人に伝えたのは、公式発表の3日前です。社長人事は、取締役会に100%の決定権がある「専権事項」ですから、これら一連の検討プロセスは、退任する当事者なしで行いました。厳密には、取締役会のメンバーには社長が入っているものの、席を外してもらってからこの件を話し合ったのです。おそらくわれわれから伝えられるまで、こうした動きを知らなかったでしょう。