村田製作所 代表取締役副社長の南出雅範氏(2025年5月取材時は代表取締役 専務執行役員 コーポレート本部本部長)(撮影:榊水麗)

 村田製作所の社是には「科学的管理を実践し」という一節がある。創業者である村田昭が創業10年目の1954年にこの社是を定めて以来、同社は「科学的管理」を経営の根幹に据えてきた。科学的管理による経営を支える独自の「経営管理制度」とは。各制度はどう進化しているのか。同社 代表取締役副社長の南出雅範氏(2025年5月取材時は代表取締役 専務執行役員 コーポレート本部本部長)と、経済産業省による「グローバル競争力強化に向けたCX研究会(※)」の座長を務めた日置圭介氏が、その中身について話し合った。

CX=コーポレートトランスフォーメーション:企業変革

「社内金利」に見る創業者の姿勢

――村田製作所には独自の「経営管理制度」があります。一体どのようなものですか。

南出雅範氏(以下敬称略) 当社では、創業者の時代から資本コストを意識した経営が根付いており、それに伴うさまざまな経営管理制度が作られてきました。そしてこれらの経営管理制度は、村田製作所のビジネスモデルと一体になっています。

 例えば当社は、材料から製品まで一貫で自社生産する垂直統合型のビジネスモデルを確立してきました。世の中にない新しいものを作るケースが多かったため、製品の製造プロセスの一部ではなく全てを村田が手掛ける仕組みが構築されたのです。

 垂直統合型のビジネスモデルは、資本投下が大きくなります。材料、商品設計、製品評価といったそれぞれのプロセスで設備投資が必要ですし、製品化される前の部品や材料の在庫といった「棚卸資産」も多く抱えるでしょう。そこで作られた一つの経営管理制度が「社内金利」です。

 これは各事業の管理会計において、資本コストと同水準の金利を費用計上するものです。その上で、この金利を上回る収益性の獲得を追求してきました。つまり、資本コストを上乗せしたハードルレート(最低限必要とされる利回り)をクリアしなければ「赤字」という認識です。簡潔に言えば、EVA会計(※)を早くから実践してきたのです。これは現在に至るまで一貫して続けています。

※利益から資本コストを差し引いて経済価値を示す会計手法