撮影:榊水麗

 データ活用を重視した経営への注目が高まる中、それをいち早く取り入れ実践してきたのが花王だ。同社は2000年代初頭からERPを導入し、データを活用した経営体制を構築してきた。どのようなデータを蓄え、経営にどう生かしているのか? 花王 上席執行役員 人財戦略部門統括の間宮秀樹氏(2025年8月取材当時)、同執行役員 会計財務部門統括の牧野秀生氏と、経済産業省による「グローバル競争力強化に向けたCX研究会()」の座長を務めた日置圭介氏、同会の発起人である経済産業省の片山弘士氏が語り合った。

※CX=コーポレートトランスフォーメーション:企業変革

「必要なデータとは何か」を定義する

日置圭介氏(以下敬称略) グローバルに事業を展開している企業にとって、世界各国に点在するデータを集約し、経営に生かしていくことは欠かせない基本動作ですが、多くの日本企業は今だそれが不得手です。花王はERPを土台にして、そこから生まれるデータを有効に活用している数少ない日本企業の1つではないでしょうか。グローバルワイドでのERP導入に着手した時期は早かったですよね。

牧野秀生氏(以下敬称略) 当社でERPを導入したのは2003年頃になります。当時から私たちが求めていたのは、必要なデータを十分に取れる環境であり、ERPもその一環でした。

 このシステムを十分に活用するには、業務のプロセスやルールを標準化することが何より大切です。そこで、ERP導入時には標準化のチームを立ち上げ、そのメンバーが専門でプロセスやルールの改革を担いました。また、ERPで得られたデータについても、各現場でそれらを自由に加工してしまうと、部門ごとの状況を比較するなどが難しくなります。こうした事態に陥らないよう、ERP導入に合わせて「必要なデータとは何か」を定義していきました。それに当てはまるデータをグローバルで蓄積し、ローカル管理に依存する標準データは作らないようにしていったのです。

花王 執行役員 会計財務部門統括の牧野秀生氏

 こうした仕組みにより、例えばブランド別・カテゴリ別の商品売価と販売数量のデータをモニタリングし、毎月の経営会議で戦略を話し合うといったことができるようになりました。常に最新のデータを確認できるので業績がぶれにくくなりましたし、商品の価格変更を検討する際も、過去のデータや別地域の状況などを見ながら慎重に判断できます。

 さらに現在は、当社の基幹システムと連動したデータレイクを設け、財務や人事などの各種データをそこに蓄積しています。これらを基にしたビジネスレポートも提供されており、データを可視化するだけでなく、それらを分析して次のアイデアを提案する「インテリジェンス化」の仕組みづくりも進められています。当社のデジタル戦略部門が中心となり、より良いデータ利活用の仕組みを構築しようと、今も改善を続けています。